大人アピール


「おい、俺との約束忘れてねぇだろな?」

「…なんだ啓司か」

「なんだって、なんだよ?」

「…安心した、啓司で」

「…どうした?お前いつも問題抱えてねぇ?」



フワリと私を離した啓司は前に回ってジッと見ている。



「これ美味しいって直人…」

「当たり前だ、俺のレシピだかんな。うまいのは当然!胃袋掴んだって?」

「うん、とっくに…」

「へぇ〜」



極めて私に興味のなさそうな啓司だけど、こういう普通の関係がホッとする。

ここには女が私しかいないからみんなにチヤホヤされているだけだって。

他に女が入ってきたら臣も哲也もきっとすぐにそっちに興味がいく。



「啓司、人間って面倒くさいね」

「今更?」

「うん。最近すごく思う」

「哲也と何かあった?」



…なんで哲也だって思うの?

私の喜怒哀楽が全部哲也のせいだって、何でそう思うの?

そう聞くことすら面倒で。

無言でソファーに座った私を追いかけてくる啓司が隣にドカっと大足開いて座った。

ミルクたっぷりな紅茶。

珈琲大好きな哲也に喧嘩売るくらいなミルクたっぷりな紅茶。

私はこの味が好き。



「おい、無視かよ?」

「………」

「コノヤロウ」

「うるさい、タロウ!!」

「おま…」



つぶらな瞳を大きく見開いた啓司を見て、内心爆笑。



「大人をからかいやがって、マジお前なぁ。人がせっかく優しくしてやってんのに、馬鹿者!」



何故か大人アピールが好きな啓司は、何かあるたびに自分を大人扱いして見下してくる。

中身は私の方が大人じゃないの?なんて内心思いながらも啓司の大人アピールすらスルーした。



「素直じゃねぇと嫌われんぞ、片岡に」



でも。

不意に言ったその言葉にドクンっと心臓がうごめいた。



「え?」



無意識で出た声に、反応したのは啓司で。



「へぇ、片岡のことはまんざらでもないんだ?」



嫌な啓司の質問に私はさっきの直人とのキスを思い出した。

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