急展開


「変なことって、なんか言われたの?」



頬杖をついてカウンターの向こうから私を見つめ上げる直人。



「男に抱かれても何の感情も生まれない…」

「…え?」

「うまいとか下手とか分かんないし、気持ちいいけど…好きなんて感情はないし…」

「ユヅキちゃん?」

「女じゃないですよね、私…」



パタンってカウンターから哲也がいなくなった。

困惑した表情で私を見ている直人をジッと見つめる。



「ごめんなさい、直人さんに答えを求めたわけじゃないです。今のは聞かなかったことにしてください…」

「…できない」



カウンターの上、私の手首を掴む直人に、ドキンっと心臓が高鳴る。

え、なに?

急になに?



「ごめんね俺、ユヅキちゃんほおっておけないみい…―――可愛くて仕方ないんだ、ユヅキちゃんのこと…」



熱っぽく見つめるその瞳に吸いこまれそうだと思った。

こんな風に熱い目で人を見るなんてできるんだ、普通は。

きっといつだって冷めた目でしか人を見ていない私に、哲也は寂しさを感じたりしていたのだろうか…





「直人さん…ずるい…――本気にさせないで…」



自分がこんなに切ない声を出せるなんて、今日初めて知った。


ギュっと私の手首を掴んだままの直人。

そのままそっと自分の方に引き寄せる。

カウンター越しだから、身体だけが前のめりになる私をそれでも熱く見つめ上げる直人にドキドキする。




「ユヅキちゃんは女だよ。出逢った日から今もずっと。俺には女にしか見えない…」



哲也、私どうすればいいの?

涙目で直人を見返すしかできない私の髪をそっと下から撫でる直人。




「門限ある?」

「…え?」

「少し遅くなっても平気?」

「え?」

「もうちょっと一緒に居たい…」




急に展開が早まった。

一体直人の中の何が変わったんだろうか?


それとも私が気付かなかっただけ?




【行ってこい、ユヅキ。キスぐらいさせてやれ】




ピアスから聞こえた哲也の声に、「少しなら大丈夫です」答えると、高揚した頬を上げて微笑んだんだ。



キスとか、するの…?


- 34 -
prev next
▲Novel_top