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愛される幸せって…
「それよりお前、昨日のタロウってなんだよ!!」
すっかり忘れていたその名前に、一瞬キョトンとしたものの、すぐに哲也がブッて吹き出したから思い出した。
チャライ元カレな啓司を。
思い出して爆笑する私を軽くポカってする啓司。
「片岡の前ではタロウで通さねぇとマズイじゃねぇか、たく」
「タロウ似合ってるよ、けーちゃん」
「黙れ、ボケ」
ジロって啓司に睨まれたからムっとして「剛典〜啓司が苛める〜」猫撫で声を出して両手を剛典に差し出すと、そのままフワっと抱きしめてくれた。
相変わらずいい匂いのする剛典。
さすがはホストあがり。
「あはは、俺が守ってあげるから」
「ほんと?」
膝の上に乗っかってオデコをくっつけると、至近距離で目が合ってその奇麗さに思わず見とれそうになる。
哲也には敵わないけど…
「うん。ねぇそれよりさ、どうだったの?」
耳朶を甘噛みしながら剛典が問いかけているけど、どうって何のこと?
言ってる意味がさっぱり分からない。
剛典はチラっと臣を見て、それから私に視線を戻した。
…――臣?
「臣さんに抱かれたんでしょ?」
「うん…」
「どうだった?うまかった?俺とどっちがよかった?」
なんて質問だよ!
「ほら、臣さんってマクラ一度もしたことないのにずっとナンバー1だったでしょ。だからそんな臣さんに抱かれるのって、興味あんじゃん!」
「よければ剛典も抱いてもらったら?感想なんて特にないよ」
「ないの?やだよ俺、さすがに臣さんでも男の身体には興味ないもん」
「私だってないよ、抱かれることに興味なんて…」
少なからずそうやって思ってきた。
どんなに哲也に抱かれようとも。
今更その気持ちが変わることなんてない、―――そう今更。
「何だか可哀想だね、ユヅキちゃん女の子なのに…。愛されるのってもっとすごく幸せなことなんだよ?」
髪を撫でながら剛典が切ない表情でそんなこと言うから…―――気分がダダ落ちだ。
「ユヅキちゃん?今日元気ないね?」
「え?」
「さっきからずーっとボーっとしてる。もしかして元カレにまたつきまとわれてる?」
目の前で心配そうな顔をする直人。
真っ直ぐなその瞳に胸がギュっと掴まれたような気分になる。
「あ、病みあがりなだけです。タロウとはあれから会ってません…」
「そっか、具合あんまよくないのにごめんね。今日はこれ飲んだら送ってくから」
珈琲を飲んでニッコリ微笑む直人。
私の作ったサンドイッチは、明日の朝ご飯にするって言って、テイクアウト用に作ったのを渡すことになっていた。
「直人さん…―――彼女いますか?」
無意識だったのだろうか、ちょっと驚いたような直人の表情にハッと我に返った。
「え、彼女?」
「わ、ごめんなさい!私そんなつもりじゃ!本当に無意識で…。違うんです、今朝剛典が変なこと言うから…」
「…たかのり?」
「え、あっ…お、弟です…」
やばいやばい、慌てて弟って言ったけど、名前なんて容易に出しちゃダメなのに。
隣にいる哲也に視線を送ると、思いっきり私から目を逸らしていて。
どうしよう、今夜お仕置きされる?
啓司と寝ることすら忘れて哲也のお仕置きばっかりが頭を回っていく。