うらはら
頭の上でブーって音が鳴ってる。
軽い振動とバイブ音…―――パチっと目が覚めてスマホを手に取ると直人からだった。
【ユヅキちゃんおはよ!今日朝から会議頑張ってくる!20時ぐらいに店行けると思うから、また後でな!】
LINEに入ったメッセージを見て頬が緩んだ。
こーいうの、友達に送るもんなのかな?
普通こーいうのって、送る?
「んー…ユヅキ…」
寝返りをうった裸体の臣が私の腰に腕をかけて後ろからギュッと抱きついてくる。
耳元に唇が当たってくすぐったい。
「臣ご飯食べよ?」
「まだいらねぇ」
ボソッと呟いて更に強くギュッと私を抱きしめる。
まだ時計は朝の8時過ぎ。
まだまだ時間は全然ある。
「臣は今日仕事平気なの?私は夜だから余裕だけど」
「あるけど昼から。…ちょっと目覚めた…」
そう言って私の身体をクルリと反転させた。
見つめあった臣の顔はちょっとむくんでる。
「寝起きの臣、可愛い」
「ムカ。可愛いとか嬉しくねぇし。…そんなこと言えないぐらいにしてやんぞ」
私を抱き寄せて迷うことなく唇を重ねた。
大口叩いたわりに、重なる唇は優しくて…
チュッて甘い音と滑らかな舌。
頬を手で包み込まれて舌を絡める臣は、朝から妖艶。
弟がオトコに覚醒しているのを感じた。
哲也でもなく、剛典でもなく、ましてやアキラでもないその抱き方は、私には合わない。
あんな風に臣に何度も「愛してる」って言われたけど、1度も言い返せなかった。
それでもいいって、俺がユヅキを愛してるだけだって、臣にそこまで想われることすらダメなんじゃないかって。
こんな私、誰にも愛される資格がないよね。
「ンッ、おみっ…」
胸の突起をギュんって指で摘まれてそこに顔を寄せて舌を這わせたから、慌てて止めに入るけど、スイッチオンしただろう臣が止められるわけもなく。
「無理、抱かせて」
はかなく涙目でそんなこと言われて、私はそのまま目を閉じた。
臣に集中したいのに、頭の中は直人がいて。
目を閉じて浮かぶのは直人の笑顔。
今夜も直人に会えると思うと、それだけで心が明るくなるようだった。
身体は臣に捧げているつもりだけれど、心の中は直人がいるその現実を、私はまだ受け止めていない。
きっとこの先受け止めることはない。