伝説の意味


「え、ちょ…―――臣っ!!」


…この子、絶対童貞!!

ジロリと私に跨る臣を睨みつけてその胸板を手で押した。


「…なにっ?」


部屋に入るなりベッドに押し倒した臣。

はぁ、はぁ…呼吸を乱しながら私の首筋に吸いついてきて…。


「なにって、えっちしたいだけ?」

「そう言うわけじゃないけど…俺ずっと我慢してたから…」


そう言う臣の顔は不本意丸出しで。

私から起き上がると、俯いて小さく溜息をついた。


「アキラさんと約束してる…」

「え?」


突然出てきたアキラの名前に目が止まる。

臣は私の手をキュっと握って続けた。


「愛情もって接しろ。でも本気には絶対なるな…そう言われてきて…」


――それは、私も知ってるけど。


臣は髪の毛を手でワシャワシャって思いっきりかく。



「愛情もって接するのに、本気になっちゃいけねぇわけってなに?俺バカだからそーいうのよくわかんねぇ。そもそも本気じゃない奴に手出すとか俺…できねぇよ…」


気持ちを吐き出した臣は泣きそうな顔でまだ俯いている。

アキラのあの言葉に、こんなにも真っ直ぐに考えて一人で悩んでいたんだって思うと、臣がすごく愛おしくて…

見かけはすごく男らしくてかっこいいのに、中身は子供みたいな臣がやっぱり好きだ。


「だからいつも私のこと大事にしてくれてたの?」


臣を横からギュっと抱きしめる私に、ほんのり視線をくれる。


どうして臣が伝説のホストだったのかって…

それは、仕事のために女を利用しなかったから。

それでも常にトップを走る、そんな奴だったからだって前に聞いたことがある。


「童貞って言ってごめんね」

「…もう慣れた。…けど俺、本気で好きな女以外は抱けない…」


私を見て頬にそっと触れるとゆっくりと顔を寄せる。


「哲也さんとか剛典とかできるかもしれねぇけど…俺はできねぇ…―――ユヅキ、愛してる…」



愛情もった触れ合いが、こんなにも切なくて…

こんなにも熱く心が揺れるものなんだって、私はこの夜始めて知ったんだ。



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