かっこいい
別にシフトなんて本来決まっていないし、このカフェもオーナーがアキラだから私や哲也がここにいられる訳で。
心配しているのか哲也はやっぱり結局全てについて来るのかもしれない。
私の服に隠しつけているマイクは全部を録音していて。
何となく丸裸にされているような気分だった。
でもこれが私達の仕事なんだと…。
「お先に失礼しまーす」
そう言ってカフェから出ると、少し前にあった喫煙スペースで煙草を吸っていた直人。
「直人さん!おまたせしてすみません!」
「お疲れ様、ユヅキちゃん」
目を細めて微笑む直人は正直男にしては小さい。
アキラや啓司がデカイ分、哲也だって小さく見える私からしたら直人なんて一番小さくて、でも何だろうか、このガッシリ感は。
「直人さん何かスポーツやってるんですか?」
「え?なんで?」
「う〜ん。身体大きいから…」
私がそう言うと、パッと目を大きく見開いてちょっと嬉しそうな表情を見せた。
「社会人野球してんの、俺!若い時はダンスも好きでよく地元でストリート踊ってたりもしたよ」
「ええ、すごい!だから何かセンスもいいしかっこいいんですかねぇ…」
ポロっとそう言うと少しだけ照れてフニャっと笑う。
「かっこいい…なんてすっげぇ久々に言われた…」
煙草の煙が私にかからないようにフウ〜って反対側に吐き出した直人は灰皿で潰して火を消した。
それからゆっくりとスーツの裏ポケットから小さな封筒を取り出す。
「昨日はありがとう。すげぇ助かった。感謝してる」
丁寧に頭を下げてそう言う直人。
律儀な人だなぁ〜って。
「いえ。私は逆に直人さんがお財布忘れてくれてよかったと思ってます…」
「え?」
「直人さんと知り合えたから…」
「はは、俺、オジサンだよ」
髪を片手で撫でながらちょっとだけ高揚している直人の頬。
たぶん普通に同じ歳の子でも、きっとこの人に本気になる子はいそう…。
それぐらい可愛く映っている、私でさえ。
「見えないですけどね!」
「嬉しいけど、調子にのって痛い目に合ったら嫌だから聞き流しておくな!」
「いいのに、調子にのってくれて…」
「も〜そんなあげないでよ!」
「だって…私本当に嬉しいんですもの…」
ジッと下から見つめあげるとやっぱり照れたように目を逸らした。
今日はここまでかな…
そう思って私は受け取った封筒をリュックに仕舞う。
それを担いで「あ、じゃあ行きますね」そう言ってペコっと頭を下げた。
「…うん、気をつけて…」
「はい、直人さんも!」
「いや俺男だし…」
「あはは、私も自慢じゃないけど今まで痴漢とか変態とかにあったことないです!」
キュっとリュックの紐を指で握ると、直人が一歩私に近寄った。
「やっぱ送るよ…昨日送らなくてちょっと後悔してたから…」
「…いいんですか?」
「うん。女の子一人でこんな暗い道歩かせらんねぇ…」
「うわ、やっぱ大人の男は違いますね!じゃあお言葉に甘えます!」
私の隣で歩幅を合わせて歩いてくれる直人は、時々後ろから車が来ると、ほんの少し身体を寄せてくれて。
それが何だかすごく大事にされているような、そんな感覚で嬉しかった。