大人の気遣い


カラン…。

ドアが開いて入ってきた客に視線を向ける。

お洒落にスーツを着こなした片岡直人がキョロキョロしながら入口にいて。


「こんばんは」


私が近寄ってそう言うと、安心したように微笑んだ。


「こんばんは」

「よかったら珈琲飲んでいってください」

「うん、勿論!」


開いてる座席に案内してメニューを見せた。


「どれがお勧め?」


チラっと私を見上げてそう聞かれて。


「ブラックですか?」

「まぁだいたいは…」

「大人だなぁ〜」

「そりゃ…」

「じゃあコレ!絶対お口にあいます!」

「ほんと?じゃあソレで。後さ、昨日のサンドイッチ…ある?」

「特別に出します!」

「やったね」


嬉しそうに微笑む直人。

まだ準備中のサンドイッチだったけど私は社員を装う哲也の隣でそれを作り始めた。


「気にいったんだソレ…」

「うん。これメニューに入れてよ?」

「そうだね」

「珈琲とびっきりの作ってよ?」

「はいはい」


サンドを作りながら視線を向けるとボーっと店内を見回している。

普通ならスマホ弄ったりしそうなのにな…なんて思っていて。


「できたよユヅキ」

「あ、はい」


自分で作った特製サンドイッチも一緒にお盆に乗せて直人の所まで行った。


「おまたせしました」

「わーありがとう」


嬉しそうに目の前に来たサンドイッチと珈琲を見て笑う。

そのまま珈琲に口をつけずに、私を見つめて小さく聞いたんだ。


「ユヅキちゃん何時まで?」


キョトンとしている私に向って、ハッとしたように苦笑いを零す。


「ごめん、今のじゃ新手のナンパみたいだったかな?そういうつもりじゃなくて、ここでお金渡すのもアレだし…って思って。時間がかかるならレジの時に昨日借りた分返すけど、どっちがいいかな?」


なるほど、気使ってくれたんだ。

私はニコっと微笑んでから「8時までです、あと10分…」嬉しそうにそう言ってみると直人も「よかった、じゃあ待ってるからゆっくり着替えて…」そう言ってようやく珈琲を一口飲んだ。


「うまっ!!何これ…すっげぇうまい…」

「やっぱりお口にあった!直人さんは絶対ソレって思ってたので嬉しいです!」

「いやマジで吃驚したわ…。俺ここ通ってもいいかな?珈琲とユヅキちゃんのサンドイッチ…めちゃくちゃヤバイわ…」

「常連さんメニューにしてください…」

「あっは、了解!」

「じゃあごゆっくり」


ペコっと一礼してカウンターの奥に戻った。



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