乙女心
いざ隆二がいなくなった社内。
別の現場に行く人達はまだ残っていてざわついているものの私の心は空っぽのような気すらして。
まだ始まって1時間と経っていないというのにもう隆二に逢いたくて…。
こんなに退屈だったっけな…
そんなことばかりが脳内を支配していた。
それでも時間はゆっくりと過ぎていって。
定時刻の17時を過ぎた頃、外にトラックの止まる音がしてドキンと胸が脈打った。
立ち上がって化粧ポーチを持つと、慌ててトイレに駆け込んだ。
今さらフルメイクをするってわけじゃないけれど、少しでも奇麗でありたい…なんて乙女心が私にも表れるなんて…。
ピンク色のグロスを縫ってる鏡に映った私は、自分でも笑っちゃうぐらいに頬が緩んでいて。
チークなんて必要なさそうなくらいほんのり紅くなっている。
隆二に逢えると思うとニヤけ頬がなかなか戻らなくて。
「戻りましたー」
ちょっとだけ疲れたような隆二の声が耳に入った。
慌ててトイレから出た私を見て「ただいま、ユヅキさん」ニッコリ微笑む隆二に、今さらながら胸がキュンってするわけで。
「お帰り、隆二くん!お疲れ様です」
「ユヅキさん珈琲貰えます?」
「うん、もちろん!」
「愛情たっぷりで頼みまーす!」
ニコニコしながらそんな言葉を飛ばす隆二は、これから現場での作業をPCで日報に纏める。
おじさん達の分も全部引き受けている隆二は、急いでPCに向って真剣な顔で伝票を作成し始めた。
お盆を抱えてそんな隆二を見つめる私に「ユヅキちゃん?珈琲貰える?」…おじさん達からお声がかかって。
ハッとつい見とれていた視線を戻して苦笑い。
「あ、今淹れます!」
そう言って給湯室に向った。
先におじさん達のを淹れてお盆に乗せるとちょうどコップ二つ分置けなくて。
「ラッキー!」
そう呟いた私は当たり前に隆二の湯呑と自分のコップをお盆から出した。
それを持ってデスクで煙草を吸っているおじさん達に配っていく。
「どうぞ」
「ありがとよ、ユヅキちゃん!」
「いえいえ」
山口さんがジーっと私を見ていて。
「そのリング、隆二が首につけてるのと少し似てる気もするんだけど…そういうこと!?」
突然そんなことを言われて残りの珈琲を危うくこぼしそうになった。
間一髪隆二が私を抱きとめるように抑えて…「大丈夫ですか、ユヅキさん。山口さんが変なこと言うからっすよ!」ふわりと私を離す隆二の温もりが恋しいなんて。
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