隆二の悪戯
隆二が玄関の鍵を開けるとそっと私の背中を押して先に中に入れてくれる。
こーいう些細な気遣いが嫌味なくサラリとできる人は今の現代少ないんじゃないかって。
そう思うと貴重な存在だなーって。
「ありがとう」
お礼を言った私に「え?」なんのこと?って顔の隆二。
それが当たり前だから。
女を守るのが当たり前な隆二にとっては私のお礼の意味も分からないんだなって、それがまた嬉しい。
褒められる為にしているわけじゃないって。
そもそも隆二に計算なんてできそうもないけど。
「かっこよくてありがとう」
だから全然関係ない言葉を返してはぐらかした。
そんな私に対して「なんだそれ!」ふわりと髪を撫でてくれる。
その大きな手が大好き。
荷物を置いてスーツのジャケットを脱いだ隆二が、そっと指でネクタイを緩める。
その一連の仕草が妙にスローモーションで見えて私の視線は釘付けになる。
ドクドクって、心臓が激しく音を立てているのが自分でも分かって顔が熱い。
見つめる先の隆二は「1本だけいい?」そう言ってあろうことか煙草を取り出すとそれを咥えてベランダへと向かう。
ジッポで火をつけようとして「待って!ちょっとストップ!」思わず腕を掴む。
「え、あ、嫌だった?ごめん俺…」
申し訳なさそうな顔を見せるけど、そうじゃない。
「動画撮るからちょっと待って!そんなかっこいい姿録画しないなんて許されない!」
勢いよく言う私を見て目を細めて小さく笑った。
「俺を見つめるユヅキの方がよっぽど可愛いけどなぁ」
そう言いながらもスマホを構える私を待っててくれちゃう隆二。
「はいどーぞ!」
私が構えて録画ボタンを押すとクスっと微笑んで隆二が一歩近寄った。
咥え煙草のまま私の腰を引き寄せて「え、隆二?」そんな私の言葉は簡単に飲み込まれた―――。
いつの間にか私のスマホは隆二に取られていて。
少しののち、小さなリップ音を立てて離れた唇。
カァーっと全身熱くなる。
ピロンって音がして隆二がスマホを私に返したその顔は満足そうで。
「撮っちゃった」
悪びれた様子もなくそんな風に言うから怒れもしないじゃない。
「誰かに見られたらどーするの?」
「すげえやだ!絶対見られないでー」
こんな時だけ甘えるのズルイ。
でも目の前で嬉しそうにしている隆二を見たら何も言えなくなる。
「寂しい時はそれで凌げる?」
優しく見つめるから「無理よ」そう言ってやった。
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