熱の正体
みんなの視線が思いっきり私に集まっているのが分かる。
「なに可愛いこと言ってんだよ…」
そんな中でまさかの隆二のその言葉に、今度は視線が一気に隆二に動いた。
手で髪をかきあげながら「俺ならそう言っちゃいそうっすよ、ユヅキさん!」ニコっと微笑む。
「いや〜一瞬俺のことかと思ったじゃないっすか!知ってましたか?俺も今日朝からスーツなんっすよ?」
あえて「俺も」の「も」を強調して言う隆二。
「あ、隆二くんもスーツだったね…知ってたよ、うん」
「いやいや、なんすか今の取ってつけたような言い方!いいっすよ、ユヅキさんの彼氏には敵わないんで自分…。とりあえず引き継ぎしたら俺、責任持って病院連れてって送るんで…」
ポンって背中を押されて、私は自分のデスクに戻った。
椅子に座って大きく息を吐き出す。
そんな私をチラっと見て優しく微笑む隆二に、本気で熱があがりそうな気分になった。
熱くなる身体を熱のせいにして私は今やってる資料を保存すると、PCの電源を切った。
「本当にすみません」
頭を下げて路子さんに言うと「いいのよ。ゆっくり休んでね」優しく返してくれて。
「隆二!送り狼になんなよ!」
山口さんのからかってる笑い声に「頑張りまっす!」なんて答えてる隆二。
「じゃ行こう」
そう言ってさりげなく私の背中に腕を回してエスコートする隆二は何度見てもかっこいい。
見れば見るほどかっこいいんだ。
「すいません、お先に失礼します」
ペコっともう一度頭を下げて事務所から出るとスッとすぐに隆二の手が私の手に絡まった。
だけど別に言葉なんてなくって…。
今日に限って車できていた隆二は、黒い車体の高い車の助手席のドアをスッと開けてくれた。
私を抱きあげるようにそこに座らせた隆二は、ドアで視界が遮られているせいもあってか私をギュっと抱きしめる。
「ユヅキ…」
下から甘く名前を呼ばれてほんの少し隆二に近寄ると、当たり前に小さなキスをされた。
すぐに離れて運転席に回って隆二が乗ってくると、彼の香水がふんわりと車内に広がる。
「隆二あのね、私熱ない…違くて…―――隆二がスーツでかっこいいから…」
自分で言っててすごく恥ずかしくて。
「え?」
だから言われた隆二もキョトンっとしていて。
「え、熱あるんじゃないの?」
「あるけど、スーツな隆二にお熱気味…」
苦笑いした私に一瞬止まってからブハっと噴き出した。
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