小さな意地悪

「あ、山口さんお疲れ様っす。ユヅキさん何か熱あるっぽくて…俺このまま送って行ってもいいっすか?」


私の言葉も聞かず…というか、聞こえていないのか、熱があるって思いこんでる隆二は山口さんにそんな言葉を飛ばしちゃって。


「大丈夫?あーでも顔赤いし目うるんでるし、熱っぽいっちゃ熱っぽいな。俺が触ったらセクハラになるからしねぇけど…」


ジロっと睨まれた隆二は慌ててパッと私から離れた。


「いや、これはそのつい必死で…。ユヅキさんごめんね」

「…う、うん」


とりあえず事務のお局な路子さんまで巻き込んで話しは進んでいってしまって。

今更隆二のスーツ姿があまりにかっこよくてポーっとしてました…なんて言えない状況になっている。

仕方ないからこのまま黙っておくことにして。


「すいません、何か…」

「いいのよ、ユヅキちゃんいつも頑張りすぎなんだから。隆二くん、ちゃんと病院連れて行くのよ!?ユヅキちゃんに変な気持ち起こすんじゃないわよ!」

「え…いやさすがに病人に手は出さないっすよ…」


苦笑いで隆二が答えた。


「うわやっぱ付き合ってるみたいっすね、今の会話」


新人佐藤くんがポケーっとしながらボソっと呟いて。

山口さんがニタアっと笑ったんだ。


「大樹!この二人別の相手がいるんだよ、残念ながら!まぁ似合ってるっちゃ似合ってるんだけどよ。だからお前たちもユヅキちゃん狙ってもダメだぞ!」

「え〜マジっすか!?俺らてっきり隆二さんとユヅキさんが付き合ってるのかと…ね、アランくん…」

「うん、そうにしか見えませんでした」


いやそうなんだけどね。

実際それであってるんだよ〜!

とは言えないんだけど。

だからか、隆二はそんな二人の言葉にニンマリ嬉しそうに笑っていて。


「まぁ俺、ユヅキさんとなら今の彼女と別れる覚悟はできてますけど…」


そうやって会社だと時々わざと私を困らせるようなことを言ったりするんだから。

いつだってすごく優しい隆二だけど、時々こうやって意地悪をするのも、本当の本当は気にいってる。


「私は別れないよ。今の彼が大好きだから」

「…へぇ〜。そんなに好きなんですか?」

「うん!めちゃくちゃかっこよくて優しくて。今朝も吃驚するくらいかっこいいスーツ着てて」

「え?スーツ?」


聞こえた声は隆二だけじゃなくて。

しまった、これじゃ隆二のこと言ってるって思われても仕方ない。


「いえあの新調したスーツがすごく似合ってて」


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