スーツマジック
「戻りました〜」
浮かれた声と共に事務所に戻ってきた隆二。
4月になって二人新入社員が入ったうちの会社。
現場がやっぱり回らないことも多くて、事務はそのままで現場だけ二人新しい人をいれた。
隆二はその新人達の研修も兼ねてやることになって、今日はその会社回りってこともあって珍しくスーツ出社だった。
朝見た時、危うく声が出そうになるほどかっこよくて。
基本作業服の隆二。
ニッカポッカがこんなにかっこよく着こなせるのは隆二だけだって思っていたけれど、スーツはスーツでめちゃくちゃかっこいい。
「お、お帰りなさい」
「ユヅキさんお疲れ様です」
あ〜そんな風に笑わないで。
私はまだ仕事が残っていて…絶対に集中できなくなるから…。
「うん」だか「すん」だか言ってすぐにPCに向かった。
「珈琲でも飲もっかな…」
わざとなのか私に聞こえるように隆二がそう言って。
やっぱり視線は彼を追ってしまう。
「お前らも飲む?」
新人に向って隆二が聞く。
手には財布を持っていて、外にある自販機で何か買ってあげるつもりだろう。
「うわ、俺いただきますっ!」
「自分も、すいませんっ!」
佐藤くんと白濱くんの若手二人がへこへこしながら隆二の後をついてった。
「ユヅキさんも飲みません?たまには奢りますよ…っつっても缶ジュースですけど」
私が見つめてるの気づいてた?ってくらい絶妙なタイミングで振り返った隆二に「やった!」そう言って元気よく立ちあがった。
二人っきりだったら腕に絡みついてギューってしたい所だけど、こんな人がいっぱいいる場所じゃ何もできなくて。
静かに隆二の後をついていく私に歩幅を合わせてくれる隆二に一々キュンっとした。
「今日寒いね」
耳元で小声で私だけに聞こえるように隆二が振り返ってそう言った。
「うん…」
面と向かって話すのが何だか照れくさくて、小さく頷くだけの私。
そんな私を見てほんのり首を傾げる。
「ユヅキさん熱ある?何か顔赤い…」
「え…」
スッと隆二の手が私のオデコに触れて、途端にドキンっと心臓が跳ね上がった。
その手をオデコから首に移して「ん〜やっぱちょっと熱い。俺送ってくから今日はもうあがった方がよくない?」…違うよ、隆二。
熱なんてないよ。
「隆二くん、私大丈夫だから…」
「大丈夫じゃないって!ユヅキさん倒れたらたまんない!」
隆二に肩を抱かれて事務所に戻ると、トイレから出てきた山口さんと遭遇した。
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