彼女
「何食べたい?」
スーパーに入ってカートで籠を押しながら隆二に聞いた。
私の鞄をヒョイっと持ってくれて一緒に手を交差させて籠を押す。
「それ聞く〜?」
クスクス笑いながらそう言う隆二をキョトンと見上げた私。
「え?」
「ユヅキ…」
チョンって綺麗な指先が私の鼻の頭を小突く。
一瞬何のことかよく分からなくて、でもすぐに隆二の視線が熱いことで分かった、その意味が…。
「そ、それはデザートです…。主食よ、もう…」
慌ててそう言ったものの、ぶっちゃけ主食になるんじゃないかって自分で思っていた。
だからなのか、隆二も「主食のつもりで言ったんだよ」なんて言って顔を近づけてくる。
親が子供にやるみたいにオデコを擦りつけて笑う隆二に、ここがスーパーだということすら忘れそうになる。
ポカって照れ隠しに隆二の手を小さく殴ると「俺嘘つけないんだよね〜」ニコっと微笑んだ。
「もう隆二、外ではダメ…」
「なんで?」
「だって…」
私の理性がきかなくなったら困る。
なんて言葉言えるわけもなく。
「ほら、早く!何食べたいか言って!」
ちょっと誤魔化すみたいにそう言うと隆二がポンって私の頭を撫でてそのまま肩を抱いて歩き出した。
「今日はカレーがいいなぁ」
「そんなのでいいの?」
「うん、カレーってその家の味って感じするじゃん!」
「あは、了解!」
そう言って野菜コーナーの所に行った時だった。
「隆二!?」
聞こえた声に二人同時にそっちを見た。
そこにいたのはそう、あの日…バレンタインの日に赤いマフラーをしてうちの会社に隆二を訪ねてきた女の人…
足を止めて隆二が吃驚した顔をする。
「結衣…」
隣にいる私を見て目を逸らした。
何となく気まずい空気で。
「あ、えっと…私先に行ってる、ね…」
バレンタインの後、そう言えばどうなったのとか当たり前に知らない。
だけど隆二は一人一人断ってくれた…のをちゃんと聞いて。
だから私はその言葉を信じている。
隆二の手を離そうとしたら「いいよ」逆にその手を取られた。
「彼女のユヅキさん」
グッと私の肩に乗せた腕に力を込めて。
結衣さんは私を見て困ったように眉毛を下げた。
「やっぱりあなただったんだ…隆二の彼女…」
「え?」
隆二がチラっと私を見て。
あの日、彼女を追い返してしまったことが脳裏を過ぎる。
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