困った時の直己
「オキちゃん私、黒かも…」
カタンってコートをしっかりとハンガーにかけてロッカーの鏡で顔をチェックしているでかい後姿にポツリとそう言った。
振り返った直己は至って普通の顔だと思うけど、何故か睨まれているような感覚で。
「本当、あなたって人は…」
呆れたように一言呟いた。
「助けてぇ〜」
「黒なら何のフォローもできないって言いましたよね?」
「何よ、電柱!あんたそんな冷たいこと言ってるとハルに嫌われるわよ?」
ふふん!って笑う私にほんの一瞬眉毛をピクリと動かす直己。
何を隠そう、直己は私に懐いているハルのことが密かに好きで…そんな直己を哀れに思ったのか、ハルと仲が良い私に「協力してやってほしい…」そう言ってきたのが同期の直人だった。
そんないきさつで私と直人と直己はよく3人でご飯にいくことも増え…
だけど実際のハルは私と同期の橘に憧れていて。
でも橘はハナって同じく私達と同期の彼女がいて…
全く私の周りにある赤い糸は一体どうしたら絡まってくれるんだろうか…。
そんなハルの同期が隆二で。
帰国子女かってくらいに紳士的な隆二に一気に私の気持ちは向いていくわけで。
かと言って、直人の仕事っぷりだったり、男らしさだったりというのも素敵で。
結局のところ、フラフラユラユラしているのは私も一緒だった。
「いや俺結構すでに嫌われてますよね…」
「だろうね〜」
「いやいやそんなハッキリ言わなくても…」
「までも、あの子たぶん絶対惚れっぽいから…胸キュン台詞でも言ってあげたらオキちゃんのことも好きになるんじゃないかな〜って」
適当な言葉を繋げる私を上から見下ろす直己は、今朝私をラブホまで迎えに来てくれた優男。
いつも困った時は直己に頼るっていう私。
困った時の直己…は、ハルとどうしても付き合いたいのか、私の言葉に絶対服従だった。
好きでもない女をよくもまぁ迎えに来てくれたもんだ。
「胸キュン台詞ってなんすか…」
「この前聞いたのよ、ハルに」
そう言って私は手帳の後ろにあるメモ帳を開いて直己に見せた。
それをまじまじ覗き込んで見る直己は笑えるくらい真剣で。
「これ誰が言うんすか…」
「あんたに決まってんでしょ!」
「無理でしょ…」
「言わないとハルと気持ちいい〜ことできないわよ?」
「ユヅキさん一応女性なんだからそういうのは…」
もごもご言う直己を見てサーっと血の気が引く思いだった。