内緒話
昨日定時で帰ったせいか、直人は既に仕事を始めていて。
珈琲をデスクに置くと「サンキュー」そう言ってパソコンに視線を移した。
その横顔を見つめているだけで幸せで。
このまま時が止まればいいのに…なんて乙女なことを思っていた私の思考をバッチリ目覚めさせる声が耳に届く。
「おはようございます」
爽やかなオーラをまとってそんな声。
会いたくて…いや、会わせる顔のない相手、隆二が出勤してきた。
「ユヅキさん、おはようございます」
ポンってまさかの隆二の手が私の肩に触れた。
隣に座っている直人に向かって「直人さん、おはようございます」ペコっと頭を下げる隆二に「おーおはよう」至って普通に答える直人。
この空間に二人がいるってだけで私の心臓は口から飛び出そうで。
「隆二くんあの…」
私の視線にニッコリ微笑む隆二はクイって指で給湯室を指してそこに私を誘いこんだ。
時間が早いせいでまだ人もあまり来ていなく、隆二が衝立の奥に入ってキッチンに寄りかかって私を真っ直ぐに見つめる。
「無事に帰れました?俺爆睡しちゃっててごめんね」
フワって私の髪に触れた手がゆっくりと頬に下がってくる。
「…ごめん隆二くん、私ね直人と…」
「ああ、付き合っちゃいました?」
…――――え?
パチクリ瞬きをする私にそんな返し。
は?何で?知ってるの?え?
挙動不審な私の手をギュっと掴みながら開いた足の間に何故か私を包み込んでいる隆二…
「あの、うん…そうなんだけど、知ってたの?」
「え、だってめっちゃ言ってましたよ、ユヅキさん。直人と付き合いたい…って俺と二人になってからもずっと…」
しばし、酒は飲まない方がいいのだろうか。
目の前の隆二に一体何をどれだけぶちまけたんだろうか。
「私何も覚えてなくて…」
「だろうね…」
「…え?」
ニヤって隆二の目が怪しく光ったように思えた。
思っただけで実際は分からないけれど。
「忘れちゃったんでしょ、俺との約束も…」
「え、待って待って…何約束って?」
「ダ〜メ、教えない!」
「何でよ…」
「俺、いいっすよ…直人さんと付き合っているユヅキさんでも。勿論みんなにも内緒でね!」
信じられない隆二の言葉にあっけにとられた私は口をポカンっと開けたままで。
そんな私の肩に手を置いて、そのままグイっと背中に腕を回されて引き寄せられた。
「ユヅキさん、アレん時、めっちゃセクシーなんだねぇ」
耳元でそんな囁き。