前だけ向いて




【side ゆきみ】


テントに戻ったわたしは、そこに直人の姿ないことに気付く。


「直人、星見に行くって言ってたけど…追いかけて行ったんじゃない?ゆきみちゃんのこと…」


岩ちゃんが目を擦りながらそう言った。なんだかんだで優しい岩ちゃん。今度こそ本当に友達になれたらいいな…なんて思う。


「あ、りがと。ちょっと行ってくる」

「気を付けて」

「うん!岩ちゃんありがとう!」


手を振る岩ちゃんに頭を下げてわたしはテントから出た。

ナナと行った方向と逆の川原の大きな石の上にちまっと座って空を眺めている直人がそこにいて。


「直人!」


下から声をかけると振り返って「はは、やっぱ来ちゃった…」そんな言葉と小さく乾いた笑いが届く。

きっと直人は分かってる。わたしがここにいる意味も。

だからそんな顔…「直人、ごめんなさいっ!」ガバって思いっきり頭をさげてそう言った。


「本当に本当にごめんなさい。勝手で我儘でどうしようもない馬鹿なわたしだけど、やっぱりわたし、このまま直人と一緒にいられない。ごめんね、わたし…隆二が好き!どうしようもないぐらい、隆二が大好きなの!だから、」

「いいよ、別れよう…」


わたしの言葉を遮った直人は、石からポンってジャンプして降りてくると、わたしの目の前で小さくそう呟いた。

思わず一歩後ずさって言葉が止まる。

目の前の直人は真剣でちょっとだけ険しい顔。


「別れてあげる」

「なお、と…」

「…ごめん、別れようってゆきみの口から聞きたくないだけ。でもゆきみの気持ちはさっきのでよく分かった。本当はもっと前から分かってたけど、それでもほんの少しでもゆきみの中に俺がいたらいいな…って思ってた。でもいない、1ミリも俺なんていないじゃん。完敗、俺の負け。ほら行けよ、隆二んとこ。その想いちゃんと伝えてこいよ」


ポンっと背中を押す直人に、くるりと身体を反転させられた。


「今振り向いたら俺、力ずくでもゆきみを離さねぇから。だから前だけ向いて…いけって」


直人の声が微かに震えていて、溢れる涙を堪えてわたしはそのまま走った。

泣くもんか、と拳をギュっと握りしめて。




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