正直な言葉




バスに乗って河原へ戻るとそこは雨が降った形跡すらなくて。

降っていたのは山の中だけだったんだって。

臣のこと”認めない”宣言した岩ちゃんは、すっかり元気を取り戻して奈々に付きまとっている。


「あの…」


テントに戻って着替えをしていたわたしと奈々の所にやってきたのはミサちゃんとシーちゃん。

奈々をこんな目に合わせた張本人。


「なに?」


無言の奈々の変わりにわたしが思いっきり睨みつけた。

奈々を見て申し訳なさそうにしてはいるものの、やっぱりわたしには許せなくて。


「あの、大丈夫?」

「え?」

「…ごめんなさい」


ごめんですむなら警察いらないっていうの!

そう思うけど、奈々は真っ直ぐに二人を見ている。


「本当にごめんなさい」

「もういいよ。無事だったし。でも…―――これ以上あたし達に関わらないで。岩ちゃんが好きなら自分の口で言うしかないよ。あたしにはどうすることもできないから」


奈々はそれだけ言うと、クルっと身体を反転させた。

そんな奈々にまた深く頭を下げて二人はテントから出て行く。


「女の嫉妬って、女にくるもんなんだね…本当に」


テレビドラマや映画でしか見たことないそれを、まさに現実に体験した奈々にわたしが言うと、ちょっとだけ眉毛を下げて苦笑い。


「ね…」


だけどすぐに奈々は口端を上げて少しだけわたしに近寄った。

キョトンと奈々を見ていたわたしに続けてこう言ったんだ。


「さっき、隆二と二人っきりで何してたの?」


…はいいっ!?

目を逸らすわたしに会心の笑みを向ける奈々。


「え、何、何かな…」

「シャワーの後!臣とあたし、振り返ったらいつの間にか二人っきりでいないんだもん、ゆきみと隆二。戻ろうとしたら臣が”やめとけ”って…」


臣…気使ってくれたんだ。

それはよかったけど…


「二人で話せたの?」


奈々がニコニコ顔で聞いてくる。

奈々には隠しごとはしたくない。

自分の気持ちもままならないけど、それでも幼馴染でもあり親友の奈々にはわたしの気持ちに正直でありたいの。


「奈々と臣がキスしてたって直人に聞いて…それを隆二に言ったら、俺もしたい…って…でもやっぱり直人の彼女だしそれはダメって思ったけど、キスしたら何かが見えるかもしれないってそう思って…。キス、してたの隆二と…」


そこまで言って顔を上げたわたしに、同じくらい真っ赤な顔の奈々がそこにいた。


「直人くんの嘘つき!」


そう言いながら。




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