隆二の音
隆二に抱きしめられるなんて初めてで。
手を繋いだことは何度もあるし、ハグされたことも何度もある。
でもこうやって愛情持って触れられて強く抱きしめられたのは初めてで、勿論キスも初めてで…わたしの頭の中が一瞬にして隆二でいっぱいになる。
「りゅ…じ…」
止められない隆二のキスは熱くて優しくて、だけどすごく切ない。
どうにか隆二の気持ちをわたしに捧げたい…そんな想いが唇を通して伝わってくるようだった。
「ゆきみっ…」
小さく名前を呼ばれて隆二の舌がわたしの中から出ていく。
頬を両手で包み込まれてチュっと唇が触れ合うだけの小さなキス。
「…好きだよゆきみ…」
そう言ってまた隆二の顔が近付く。
壁にわたしを追いこんで全身でわたしへの気持ちをキスに込めてくれる隆二から…―――離れられなくなりそう。
…やっとの思いで隆二の胸を手で押すと、ハッとしたように隆二がわたしから距離をとった。
見つめ合っているわたし達は少し呼吸が乱れていて。
唇がすごく熱い。
無言の隆二がわたしの手首を掴んで自分の胸にそっと当てた。
ドクドクドクドク…ってダッシュした後みたいに音を奏でている隆二の心臓。
「俺の想い、忘れないで覚えといて」
掠れた隆二の声にそっと目を逸らした。
廊下に出ると、当たり前に奈々と臣の姿はなくって。
ざわつくフロアに戻る寸前、隆二の手をそっと離した。
このドアを開けたらそこには直人がいると思う。
こんな最低なわたし、せめて嫌いって言ってくれたら楽になれるんだろうか?
「ゆきみ、今夜同じテントだから一緒に寝よっか!」
「え?」
ドアを開けながら隆二がいつもどおりの態度でそう言う。
沢山の人の中、すぐに奈々の後ろ姿を見つけてそこに向かう。
「奈々が怒るよ、隆二」
「奈々がいいって言ったら一緒に寝てくれる?」
「奈々はいいなんて言わないって…」
わたしが言うと、声に反応したように振り返る奈々とその隣にいる臣。
「お前らどこ行ってたの?」
怪訝に臣がわたしと隆二を見てそう言った。
「何の話?ゆきみ」
奈々がニコっと微笑んでわたしを見る。
その笑顔にやっぱり癒されるわけで。
「奈々、今夜俺とゆきみ一緒に寝てもいいだろ?」
ランランとした目で隆二が奈々の前で膝をついてそう聞いた。
キョトンと目を大きく広げる奈々の横、「隆二何言ってんの?」さっきより不機嫌な臣の声に何となく苦笑い。
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