呼びすて




見る見る直人くんの顔が青ざめていって、ベッドに上にストンって腰を落とした。

脱力している直人くんは「自爆しそう…」小さくボヤいて。

それが正直ちょっと可愛い。


「キス、してたの?奈々と臣…」


わたしがそう聞くとスッと顔をあげるけどそのつぶらな瞳は泣きそうに潤んでいる。

聞こえていなかったのか判断つかないのか、「え?」わたしを見つめてそう聞いてくるから。


「キスしてた?奈々と臣」

「あ、うん。してた」


コクって小さく頷く直人くんはさっきまでのかっこいいオーラが完全に消失している。

わたしはストンって直人くんの横に座ってジッと視線を絡ませて…

若干目が泳いでいる直人くんは大きく溜息をついて口を開いた。


「馬鹿だなぁ俺…」

「さっきちょっとかっこよかったよ、直人くん」

「え?さっき?」

「わたしのこと守ってくれた」

「あ、うん。そりゃゆきみちゃんだもん!」

「いつも守ってくれる」

「………」


ゆっくりと直人くんの視線がわたしを捉えて。


「隆二にも負けないよ俺」


メラメラと闘志を燃やす直人くんの手をギュっと握ったら大きく目を見開いた。


「あのさ…」


ちょっと気まずそうな直人くんを見つめていると、どんどん真っ赤になっていって。

困ったように口端を緩くあげる。

「あ〜」とか「う〜」とか変な声を出している直人くんが何を言いたいのか何となく分かる。


「岩ちゃんに言い返してやらなきゃ気がすまないわたし!」

「え?」

「早くしないと気が変わっちゃうよ…」

「わ、だめだめ!」


直人くんがわたしの手首を掴んでそっと引き寄せる。

目の前に直人くんの顔があって目が合うと、照れたように微笑んだ。


「めっちゃ好きだよゆきみちゃん」


甘い告白と、甘いキス。

触れ合うだけの小さなキス―――

これが気持ちの入ってないキスだなんて言わせない。

だけどわたしと直人くんだけの秘密にしておきたい気もする。

小さなリップ音と同時に離れた唇。


「直人って呼んで欲しいな。俺もゆきみって呼びたい…」

「もう呼んでる」

「あは、そっか!ゆきみ…」

「行こう直人!」


スッと立ち上がったわたしを下から見つめあげる直人。

名残惜しく立ち上がると指を絡ませてドアまで歩く。

カチャってドアノブを回したわたしを後ろからギュっと抱きしめる。


「もう少しだけ…」


耳元でそう言うと直人がわたしをクルリと反転させて壁にトンっと押し付けた。

気持ちの入ったキスは嬉しい。



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