素直な気持ち
直人くんを安心できる…そう言ったゆきみは、自分でも気づかないままほんの少し直人くんに惹かれているのかもしれない…
そう思えたんだ。
だから余計にどんどん募ってしまう隆二への気持ちに歯止めが利かなくて、でも直人くんの傍にいたい気持ちもゼロじゃなくて…苦しいんだと思う。
直人くんのことを全く意識していなかったのなら、ゆきみはもう隆二への気持ちを素直に伝えているんじゃないだろうか…
ここにきて、直人くんの存在が大きくなりつつあるゆきみの本音を、あたしは受け止める。
「ゆきみ…あたし臣が好き…」
突然の告白に、ゆきみは俯いていた顔を上げた。
真っ赤な瞳のゆきみが真っ直ぐにあたしを見ていて。
ほんのり笑みを浮かべて続けた。
「ずっと臣が大好きだった。今もずっと…。でも臣はゆきみのことが好きなんだろうって思ってて。でも諦められなくて…嫌いにもなれなくて、すごく苦しくても臣だけがずっと好きでね…。この先何があるか分からないけどそれでも臣を好きな気持ちは消えないと思う。やっと今それを素直にゆきみに言えるって…――自分の気持ちに素直になるのは難しいかもしれないけど、ゆきみが隆二を想う気持ちに嘘はないって思う。直人くんのことを大事にしたい気持ちも…。今は苦しいけど、きっとゆきみが幸せになれる道はもうあるって信じよう?」
あたしの言葉にのせてゆきみの想いがハッキリすればいいな…とは思うけど、そんな単純なものじゃない。
そんな簡単じゃないから苦しいんだ。
「奈々…」
「ゆきみが臣のことを好きなのかな?とかも色々思ってずっと言えなかったの、あたしの気持ち…。馬鹿だよね、あたし達の友情が壊れることなんてないのに…。でもそれくらい大事な存在なの、ゆきみも臣も、隆二も。ゆきみの苦しさあたしも一緒に受け止める。一人じゃないから…苦しい気持ち我慢しないで、あたしには」
「奈々っ」
堪え切れず泣きだすゆきみをあたしはまたギュっと抱き締める。
「ゆきみが幸せでいてくれないとあたし、全然嬉しくない」
「うんっ…」
「一緒に幸せになろう?」
「うん、うんっ…」
「ゆきみ大好きだよ」
「わたしも奈々が大好きっ」
誰しも恋をしたら自分の気持ちを見失ってしまうこともある。
傍に居てくれる直人くんと、傍にいてほしい隆二との挟間で苦しんでるゆきみを、あたしは絶対に何があっても支えるって、胸に誓った。
―――あたし達、幸せになる為に出逢ったんだよね。
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