悲しい本音




アキラ先生に抱えられてコテージに戻るとゆきみが飛び着いてきた。


「奈々っ!奈々っ!無事でよかったよ〜」


顔をくしゃくしゃにして泣きつくゆきみの頭をポンってアキラ先生が撫でた。

後ろにいた隆二が「大丈夫?」小さく聞いた。


「うん。心配かけてごめんね」


あたしの言葉に隆二も泣きそうな顔でゆきみごとあたしを抱きしめた。


「おい、俺を忘れんなって」


そんなあたし達三人にまるで忘れられていた臣。


「ゆきみちゃん」


臣を支えていた直人くんもよく見るとボロボロで。


「直人くん、ありがとう…」

「全然!とりあえず着替えねぇと…広臣も行く?」

「え、ああ…」


臣を連れて直人くんがシャワー室へと消えていく。

ここにはもう岩ちゃんの姿はなくて。


「隆二、岩ちゃんは?」

「あれ?さっきまでいたんだけど。ゆきみも奈々もシャワーしておいで。風邪引いたらたまんない」


隆二に言われてゆきみがあたしのことを待っていてくれたんだって分かった。


「うん。奈々身体大丈夫?痛いよね…」

「痛い…。でも大丈夫…。隆二、ゆきみ借りるよ!」


あたしがそう言うと、隆二が嬉しそうに笑って手を振った。


ゆきみと一緒にシャワー室まで行く。

個室になっててそこに入って熱いお湯に当たる。

あたし達が一番最後だったみたいで、ここには二人きり。


「ゆきみ…」

「ん〜?」

「隆二のこと…考えることはできない?」


あたしの言葉にゆきみの動きが止まる。

曇りガラスの向こうでゆきみは静止していて。

スッとお湯を止めた。

タオルを巻いて出てきたゆきみは真っ赤な目で…


「タイミング悪すぎだよね…」


悲しげに呟いた。

一歩踏み出せないゆきみ。

その背中をあたしが押してあげたいって思うけど、決めるのはゆきみ自身であって。


「直人くんがいなかったら奈々の所に辿り着けてなかったかもしれない。守ってくれるの、一番傍で…。直人くんがいると安心できる…」

「そっか」

「ちゃんと見なきゃダメだと思うの、直人くんのこと…」

「うん」

「でも…―――」


震えた声のゆきみにあたしは急いで下着をつけてシャワー室から出た。


「隆二が頭から離れない…―――お嫁さんにしたいって言ったあの時からずっと、隆二が離れていかない…」


あたしの腕に顔を隠すみたいに寄りかかるゆきみを反対側の手でギュっと抱き締める。

どうにかゆきみを幸せにしてあげたい。


「助けて奈々」


ゆきみの涙声で包まれた。



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