愛おしい温もり




【side 奈々】


このままもうゆきみにも臣にも隆二にも逢えないのかもしれない…

そんな弱気なことを思った。

ミサちゃんを助けた臣達を置いて、シーちゃんと先生を呼びに行く途中で足を滑らせたシーちゃんを助けたはずみで崖の下に落ちた。

何となくわざと腕を払われたような気がしなくもなくて…

事故か故意かはさだかじゃない。

でもそんなあたしに言ったシーちゃんの一言で生気を失いかけていた。


「ミサ岩田くんのこと好きなんだよ!奈々ちゃん最低!」


あーそっか。

ミサちゃんが岩ちゃんを好きで、それでさっきあたしに近づいたんだって。

昔っから回りにいる臣や隆二目当てであたしとゆきみに近づく子を沢山見てきた。

だから今回もその一つだって。

でも落ちた衝撃と生理痛でどこもかしこも痛い。

苦手なカミナリすらもう怖くなくなっていた。

こんな時傍にゆきみが居てくれたらどんなにいいかって。

やっぱりあたし、一人じゃいられないって…

雨で寒くて動けなくて…もうダメ…

目を閉じようとした時に聞こえた「奈々ちゃん!?」あたしを呼ぶ声にパアっと意識が覚醒した。


「あ、岩ちゃん…」


叫びたいのに思ったように声が出なくて。


「クソ、何だよ、この崖!奈々ちゃん大丈夫!?今そっちに行くから待ってろ!!」


だけど岩ちゃんはどうやっても降りてこれなくて。

そこに現れたゆきみと隆二と直人くん。

ゆきみの顔を見た瞬間あたしの心が温かくなって…

あたしの所に来てくれようとするゆきみが嬉しくて…


「ゆきみ…隆二…―――おみ。…おみっ…」


気づいたらそう叫んでいた。

臣に逢いたくて…さっき臣と離れたことを心底後悔した。

あたしも一緒に居ればよかったって…

色んな感情が混ざって泣きそうなあたしの所に、ズザ―――って音を立てて崖を降りてくる臣が目に入った。

半ば転げ落ちながら臣がドサっとあたしの側で止まって。


「奈々っ!ごめん一人にしてっ…ごめんな奈々っ…」


ギュウって抱きしめられた。

無くなっていた感情が蘇って、今ここに臣達がいるってことが嬉しくて、涙も声も我慢ができなかった。


「怖い思いさせてごめん。もう離さないから…もう安心しろ…」

「おみ…」


臣に寄りかかって顔を埋めるあたしを強く強く抱きしめる。

この雨から…全てのものから守ってくれるであろう臣の温もりがただただ愛おしい。


「奈々…」


不意に名前を呼ばれて顔を上げると真剣な臣の瞳が薄っすらと閉じた。



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