迷いのない後ろ姿




「岩ちゃん!奈々はっ!?」


息も切れ切れ岩ちゃんを見ると真っ青な顔をしていて。

困ったように足元を指差した。

そこに蹲っている奈々…「奈々っ!!!奈々っ!!!大丈夫っ!?」わたしが叫ぶと辛うじて顔をあげた。


「ゆきみ…」


今にも消えちゃいそうな小さな奈々の声。


「今行くから待ってて!」


そう言って足元を見たら思いっきり後ろから直人くんに引っ張られた。

斜面が急で、ここから下に降りるなんてとても無理。

こんな場所から落ちたの、奈々…。


「危ないってゆきみちゃん!俺が行くから頼むからここで待ってろよ!」

「やだよ、奈々が可哀想っ!!直人くん離してっ!わたし今すぐ奈々の所に行きたいっ!」

「無理だ!ここじゃゆきみちゃんまで怪我する!そんなゆきみちゃん誰も望んでねぇよ!」


分かってる、無理なことぐらい。

だから男の岩ちゃんでさえ足がすくんで動けずにいたんだって。

でもここを降りなきゃ奈々の傍には行けなくて。

悔しさと空しさで涙が溢れた。


「ゆきみ…隆二…―――おみ。…おみっ…」


力を振りしぼるように奈々が叫んだ時だった。

わたし達の横をシュって黒い影が通って。

その崖を迷いなく降りて行く臣の後ろ姿だった。

大きな岩に掴まりながらズザ―――って転がり落ちる臣。

三回転してからドスっと下に落ちて止まった。


「奈々っ!ごめん一人にしてっ…ごめんな奈々っ…」


ミサちゃんと道を外れたって言ってた臣がここにいて、奈々の所に飛んでいった。

ギュって弱っている奈々を胸に抱きしめる臣に寄りかかる奈々が声を出して泣きだす。


「怖い思いさせてごめん。もう離さないから…もう安心しろ…」

「おみ…」


奈々の鳴き声が雨に混ざって小さく聞こえる。

呆然とその光景を見ていた岩ちゃんは「先生呼びに行く」そう言って一人で戻ろうとする。

でもなんか心配で。


「岩ちゃん一緒に行く!」


わたしが言うとこっちを向いて寂しそうに微笑んだ。


「俺も行く…あーいや。隆二一緒に行って。俺は二人が心配だからここに残る…」


どうしてか直人くんがわたしを離して。

一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにわたしの手を取って「分かった。奈々と臣を頼む…」そう言うと岩ちゃんの所に誘導した。

無言で歩く岩ちゃんの後ろを隆二と二人で歩く。


「こんな時に何言ってんの?って思うかもだけど…奈々ちゃん見つけた時運命感じたんだよ俺…」


背中が泣いてるみたい…



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