こんな時なのに




「奈々――!!」

「奈々ちゃ――ん!!」


直人くんと隆二と三人で土砂降りの山道を歩く。

雨は体温を奪うくらいに冷たく吹き荒れていて、凍えそう。

こんな場所を一人で歩くなんてとうてい無理で。

カミナリが苦手な奈々が今どこかで一人だと思うと涙が出そうになる。

どうして奈々が…

そう考えるよりも先に足が奈々を求めて歩いている。


「奈々――!」


何度も何度も叫ぶけど、雨でわたし達の声はさほど遠くまでは届かない。


「ゆきみちゃんそこ危ねぇっ!」


急に直人くんに言われたけど、ズルっと滑って踏み外してしまう。


「ゆきみっ!!」


ほんの数ミリ隆二の手が届かなくて、緩い土の上から足が離れる。


「キャアアアア―――!!!」


悲鳴を上げた瞬間、フワっと身体を抱きしめられて。


「危ねぇっ!大丈夫!?」


危機一髪直人くんが木の枝につかまって片手でわたしを引きとめている。


「直人!」


隆二がそんな直人くんの腕を掴んで目一杯引っ張りあげてくれて。


「ゆきみ怪我は?」


わたしの頬をそっと撫でた。

こんな時なのに、ドキっとして隆二を見ると泣きそうで。


「大丈夫、隆二ありがとう」

「うん。直人は大丈夫?」


隆二と一緒に視線を直人くんに移すと、木の枝に引っ掛けた場所から血が垂れていて。


「あ、ごめんなさい。わたしのせいで…」

「違う違う、俺が悪いの。もうちょっと反射神経いいはずなんだけどな普段は!痛くないから泣かないの」

「…泣いてないもん」

「よし!」


ポンって直人くんがわたしの頭をカッパの上から撫でた。

こんなんで奈々に辿りつけるんだろうか…


「奈々…どこにいるの?」


弱気になりそうな気持ちを抑えてぐっと唇を噛む。

わたしには直人くんも隆二もいるけど、奈々は一人かもしれない。

カッパも着てないかもしれない。

寒くて震えているかもしれない。

何より、一人で怖がっているんだって。


「とにかくもうちょっと奥まで行こう」


直人くんがそう言った時だった。


「奈々ちゃん!!!」


遠くで聞こえた岩ちゃんの声に、わたし達は顔を見合わせた。

やっぱりまだこの山の中に奈々がいるんだって。


「こっちだ!」


直人くんがわたしの手を取って早足で歩きだす。

一刻も早く奈々の元に駆けつけなきゃって。

一人で怖がってる奈々を安心させてあげなきゃって…それしかなかった。

歩いて歩いて、やっと岩ちゃんらしき姿を見つけた。



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