ハプニング




「そっか〜やっぱり奈々ちゃんの本命は登坂くんか〜」


一人で勝手に納得したミサちゃんだけれど、何となく否定ができなかった。

山の天気は変わりやすい。

ピーカン照りだった空も、30分もたつと真っ暗になっていた。

やだな、カミナリ鳴ったら…

そう思うあたしの気持ちをあざ笑うかのよう、ポツ…ポツ…と残念なことに大粒の雨が降り出してしまった。

登山はひとまず中止で、みんな途中のコテージに向かって急ぎ始めた。

この天候で生徒達がみんな少し混乱している。


「奈々、はぐれんなよ!」


臣がそう言ってあたしの腕を掴んだ。

帽子から雨が滴り落ちていて、臣がいつもより大人っぽく見える。

ドキっと胸が高鳴った瞬間、ゴロゴロっとカミナリが鳴り始めた。

途端に心臓がバクバクいいはじめてあたし自身がパニックになりそうで…

でも臣がいるから大丈夫!って。

そう安心した時だった。


「キャ―――!!!」


気づくとミサちゃんがあたし達の後ろで雨で滑って道から外れていた。


「ミサちゃんっ!!大丈夫!?」


臣と二人で慌ててそっちに駆け寄る。


「奈々お前ここから絶対動くんじゃねぇぞ?」


肩に手を置かれて臣にそう言われる。

分かってる、足手まといになるって。

重々分かってる。


「臣…危ないよ」

「心配ねぇから!」


そう言った臣はその場でギュっとあたしを抱きしめた。


「…安心しろ。俺は奈々から離れたりしない…信じろよ俺のこと」


甘い言葉を確信づけるように力強く抱きしめられる。

こんなに土砂降りでカミナリも鳴っているっていうのに、あたしの耳には臣の言葉しか入らなくて。


「…ん」


小さく頷くと優しく微笑んで臣があたしから離れた。

次の瞬間、ゆっくりとミサちゃんの方に腕を伸ばす臣。

滑らないようにゆっくりゆっくり歩いて…「掴まれ!」そう言ってミサちゃんの腕を引っ張った。

だけど同時にカミナリがドドーンと鳴って、「キャアアアアア―――!!」頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。


「奈々ちゃんこっち!!」


グイっと腕を引っ張られて見るとミサちゃんと仲のいいシーちゃんだった。


「ミサ!登坂くん!先生呼んでくるから待てる!?」

「構わねぇ、奈々連れてってくれ!」


下から臣が叫んでいて。

ミサちゃんは怖くて震えながら泣いちゃってて。


「すぐ戻るから耐えてねっ!」


シーちゃんに引っ張られて、でも…。


「臣っ!」


あたしの叫び声はカミナリに紛れて届かない。



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