愛され上手




「たく…俺のいない所でゆきみちゃん困らせるの止めろよな、岩ちゃん!」


助けたのは直人くんだった。

泣きそうな顔のゆきみを見てポンポンって頭を撫でる直人くん。


「も〜うそんな顔しないでよ!いいじゃん別に誰に何言われても!大事なのはゆきみちゃんと俺の気持ちだって…言ったろ?」

「直人くん…」

「言っとくけど」


そう言った直人くんは一端言葉を止めて岩ちゃんを見つめた。


「そっちがどう思おうとゆきみちゃんと俺が付き合ってるのは事実で、好きだからキスもするよ。それをどう思おうと岩ちゃんの勝手だけど、それでゆきみちゃんを困らせたりするなら俺、許さねぇから!」

「いいねそんな愛されてて」


岩ちゃんはあえてなのか、直人くんの言葉をスルーしてそうゆきみに言ったんだ。


「全く」


困ったように直人くんは溜息をついた。


「直人くんありがとう」

「可愛い彼女がピンチだもん、助けるに決まってんだろ!」

「…うん」


ゆきみが少しハニかむと直人くんも嬉しそうに笑った。

これが現実なんだって思うとやっぱりちょっと胸が痛い。

隆二の想いを聞いてしまったあたしは、それでもゆきみの相手は隆二であって欲しい…と願わずにはいられないんだ。

もしも隆二なら岩ちゃんにどう言った?

臣だったら、なんて言うんだろうか?


「まぁ俺達直人のことも認めねぇけど…」


ボソっと臣がそんなことを呟いたけど、きっとあたしにしか届いていない声のように思えた。

隆二の切ない表情が頭から離れない…


そんな気まずい空気も「奈々、竿動いてる!」ゆきみの一言で一変した。


「あ、ヒット!」


慌ててクルクルとワイヤーを巻き始めたあたしの所にどこからか、網を持ってやってきたのは健ちゃんだった。


「ええよ、ええよ!そのままゆっくりやで奈々ちゃん!」

「え…う、うん…」


何かすっごく熱く解説し始めた健ちゃんに、みんなが爆笑していて。


「今やっ!引けっ!!」


いきなり大声で叫ばれて、吃驚しながらもあたしは竿を引き上げた。

その瞬間、魚が水面から飛び出して、それを奇麗に健ちゃんが網で受けとめる。


「よっしゃ―――!ナイスやでっ!」


健ちゃんの満面の笑みにまた空気が明るくなった。

そうやって川釣りを楽しみつつも、カレーを作りあげたあたし達。

テントが隣ってことで、班すら違うものの場所は一緒で。

傍にゆきみと隆二も居てくれることがすごく嬉しいんだ。



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