着れないTシャツ




直己くんと一緒に河原に戻った。

先にコテージに貴重品を預けると先生に着替えてから河原に行くように言われて…隆二とお揃いのTシャツを手にした。

隆二がこのTシャツをいつ着るかなんて分かってないし、その約束はしていない。

だからわたし一人が着ているだけならいい。

でも…―――「着れるわけないよね…」そこに浮かんだ直人くんの屈託ない笑顔にわたしはTシャツをボストンバッグの奥深くにしまい込んだ。

別のTシャツを着て外に出た所で直己くんが待っててくれて。


「行ける?」


優しく聞かれた。


「うん大丈夫、ありがとう」

「何もしてないよ」


そう言った直己くんはわたしの歩く歩幅に合わせてみんなのいる河原へと行った。

ゆっくりと歩きながら遠くを見つめるわたしの視線に飛び込んだのは当たり前に隆二で。

隣には奈々がいた。

てっきりうちの班の女子に掴まっているものかと思っていたけど、どっちかというとその役割は臣の方で。

不機嫌ながらも女子に囲まれている臣がそこにいた。

何の話してるの、奈々と隆二。

アウトドア派の奈々は、美人な外見とは想像つかないぐらい密かにアクティブで。

そんな奈々と一緒にテントを張っている隆二。

不意にグラっと奈々が足をフラつかせた瞬間、隆二がすぐに奈々を支えた。

さも当たり前に守っている隆二を見て…――奈々相手に初めて胸の中がモヤモヤしたんだ。


「直己くんあの…ちょっと先にい…」

「ゆきみちゃん?」


わたしの腕を取ったのは直人くんだった。

頭にタオルを巻いて肩まで腕まくりしている直人くんがニッコリ微笑んでいる。


「買出しだったんだ!俺もそっちにすりゃよかった。持つよ」


スイっと重たくもないわたしの荷物を取ってくれて。


「行こう」


わたしの背中に腕を回す。

どうしよう、わたし今どんな顔してる?

直人くんのことちゃんと見れてる?

色々な気持ちが頭の中をグルグル回っている。

でも神経は奈々と隆二に集中していて。


「ゆきみちゃん連れてきた」


そう言って直人くんが奈々の所にわたしを差し出したんだ。


「ゆきみお帰り!」


いつもの笑顔をくれる奈々。

隣で隆二もニコっと微笑んだけれど、すぐにわたしに近寄った。


「ゆきみTシャツは?」


目の前の隆二はわたしとお揃いのTシャツを着ていて。

それを着ていないわたしを見て悲しそうな顔を見せる。


「忘れちゃったみたいごめんね」


そう言うのが精一杯だよ、隆二。




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