閉じ込めた想い
「片岡に聞いた…」
買い物の途中、突然直己くんがそうぼやいた。
じつはずっと言いたかった…みたいな顔で、わたしが落ち着くまで待っててくれたような感じの直己くん。
「うん!直人くんと付き合ってる!」
「似合ってるよ、ゆきみちゃんと片岡。よく似合ってる」
直己くんの細い目がいっそう細まって小さく微笑んでいる。
「ありがとう!直己くんはいないの?気になる子…」
大きな彼を見上げながらそう聞くと、目をグルリと回して視線を逸らした。
すぐに戻ってきて…こう続けたんだ。
「気になるってさ…どんな?」
…――え?
どんなって、不意に浮かぶ隆二の顔。
直人くんと付き合っているっていうのに何でか浮かんだのは隆二で。
臣すら浮かばない。
「え、どんなってほら、急にポンって頭に顔が浮かんだり…何となく他の子と話してるの見たくなかったり…そういうの、気になってるんじゃないの!?」
そう言ってハッとした。
だってそれは、わたしが今隆二に思っている感情そのものだったのだから。
まさか、そんな…
違うよね。
だってわたし、直人くんと付き合ってる。
直人くんのこと信じてる…―――隆二よりも好きにさせてくれるって。
「ゆきみちゃん?」
立ち止まってしまったわたしを振り返る直己くんは、両手いっぱいに買い物袋をさげていて。
わたしが持っているのはほんの軽い食材だけ。
「今の間違い…。それは気になってなんかない…」
俯いた足元にポツっと小さな滴が落ちた。
雨…?
「ごめん俺、そんなつもりじゃ…」
慌てた直己くんの声がして顔を上げるとボヤケた視界の中、困った顔の直己くんが映っていて。
首を横に振ったらボヤけていた視界がクリアになる。
同時に頬を伝う滴。
「違うのほんとに…」
「分かってる違う!恋はそんなもんじゃないからっ!」
荷物を置いて空いた直己くんの肩手がわたしの肩をグッと抑えた。
人の温もりが落ちて、少しだけ落ち着く。
「ゆきみちゃんと片岡は似合ってるから…そこに間違いはないから…」
もう一度念を押すみたいにそう言う直己くんの声に、小さく頷いた。
芽生え始めてしまったこの想いを、誰にも気づかれないように心の中に閉じ込めた。
もしも奈々が隆二を好きだったら…
そう思う気持ちも一緒に、胸の中に押しこんだ。
わたしは直人くんのことを好きになるんだって…
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