約束




きっと臣だったら「恋人だから無理…」とか言うんだろうな…。

想像したらちょっとだけおかしい。


「好きな子いるから、ごめんね」


隆二の言葉にやっぱりドキっとする。

好きな子って誰?

奈々?それとも―――わたし?

気づくとキュっと直人くんがわたしの手を握っていて。


「ゆきみ…」


呼び捨てされて振り向いたわたしに誰にも気づかれない程度の軽いキスが落ちた。

キョトンとしているわたしに向かって少し照れた顔を見せる。


「本当はもっとちゃんといっぱいしたいんだけど…」

「…うん」

「だからキャンプの時、いっぱいさせて?」

「うん」


好きな人とだったらいっぱいキスしたいって…

大好き…って気持ちを込めて何度だってキスしたいって…

―――思うものだよね。


それからわたし達を乗せたバスは普段都会じゃ有り得ないくらいの空気のいい景色のいい場所へと到着した。


「ゆきみ、荷物」


そう言ったのは隆二で。

バスから降りるわたしのリュックを軽々持って降りて行く。

いつだって紳士的な隆二のスマートさは誰も右に出る人なんていなくて。


「隆二ありがと」

「いいよ。俺持ってくから」


ポンって隆二の大きな手がわたしの頭を優しく撫でた。


外は水音がしていて、大きな河原が広がっている。

そこに各班ごとにテントを貼って過ごすことになっていた。


「テントで寝るの初めてだわたし…」

「俺も!」

「背中痛いかな…」

「どうだろ…」

「奈々と臣も一緒がよかったな…」

「俺が埋めるって!今度は4人で来よう?」


今朝の告白なんて忘れてしまいそうな隆二とのいつも会話に心が落ち着く。

気分が穏やかでいられるのは隆二の特権だって思う。

マイナスイオンがいっぱい出てるって思えるくらい。


「ゆきみちゃん!とりあえず俺班に戻る!キャンプの約束忘れないでね?」


ギュっと直人くんが隆二の存在を無視してわたしを抱きしめた。

あきらかに怒った顔の隆二。


「あ、うん…」

「ええ、忘れてた?」

「覚えてるよ…」

「うん、じゃあね」


名残惜しそうにわたしを離すと直人くんは荷物を持って自分の班へと戻って行った。

同時に現れた我が班の班長、直己くん。

目が合うと苦笑いで頭を下げる。


「ごめんね。片岡がどうしてもゆきみちゃんの隣に座りたいって…」

「うん、ありがとう直己くん」


わたしがペコっと頭を下げ返すと「マジ勘弁してよ」…隆二の怒った声に直己くんが苦笑いを零した。




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