不安な顔
【side ゆきみ】
…本当は自分でも分かってる。
馬鹿なことしてるって。
隆二の気持ちも臣の気持ちも奈々の気持ちさえハッキリ分かっていないのに、わたしの勝手な想像でわたし達の関係を壊そうとしているのはわたしなのかもしれないって…
でも今更無理。
あの日わたしは直人くんを信じた。
もう引き返せるわけない…
「ゆきみちゃん?どうかした?」
バスに戻ると直人くんが心配そうにわたしを覗き込んだ。
バスだけ直己くんに変わって貰った…ってわたしの隣に乗り込んだ直人くん。
いつも不安なわたしを持前の明るさと面白さで笑顔にさせてくれる。
「6組の幸子ちゃん知ってる?」
「あーうん。元中一緒だった」
「直人くんのこと好きみたい」
「え?」
すっごい吃驚顔だから、全く気づいてなかったんだって。
本来こういう人の気持ちをわたしが直人くんに伝えるのは間違っているって分かってる。
フェアじゃないって。
でも奈々に八当たりした幸子を許すわけにはいかない。
「トイレでそんな話してた!」
「そっか。けど俺はゆきみちゃんしか見てないから」
「うん」
「俺のこと信じてくれてるよね?」
今度は直人くんの方が不安そうな顔で。
たぶん直人くんにこの顔をさせられるのはわたしだけだって思う。
それが”好き”ってことなんだって…。
だからまるで直人くんと同じような顔でわたしの後ろの席で他の女子と話している隆二のその表情を見ると胸が痛い。
どうしていきなり隆二が気持ちを出してきたのかさっぱり分からなくて。
小さいころからわたしを好きでいたの?
それとも何かがキッカケでわたしを意識したの?
それとも…―――臣と奈々の幸せを願って身を引いたの?
何も分からない。
「信じるよ、直人くんいつもわたしに真っ直ぐだもん」
「よかった」
ホッと胸を撫で下ろす直人くんを見て、余計にわたしの心は痛くて。
自分で決めたことなのに、この現実から抜けだしたい…って心の奥底で叫んでいるような気分だった。
「隆二くんあの、よかったらキャンプの時少し二人で話せないかな?」
不意に聞こえた後ろからの声。
ズキンっと心臓を小さな矢が刺さったような感覚がした。
「あー…二人はちょっと…」
「お願い!やっとチャンスがきたんだもん!幼馴染の二人が大事なの分かるけど、幼馴染と恋人は別でしょ?お願い!」
わたし達はただの幼馴染であって結局恋人ではないって、みんなは思っているんだ。
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