戸惑い




嘘みたいなゆきみの反応にあたしの方がドキドキしているかもしれない。


「隆二と何かあった?」


そう聞くと泣きそうな顔で目を逸らしたんだ。

不意にギュっとゆきみの手があたしの手を握って。

だから強く握り返した。

不安な時はあたし達はいつもお互いの体温を確かめ合ってきた。

昔からずっと…―――


「隆二も臣も…奈々が好きだってずっと思ってたのわたし…」


初めて聞くゆきみからの言葉に思わず生唾をゴクっと飲み込んだ。

俯いたままだけど、繋がれた手は温かい。

あたしは黙ってゆきみの言葉の続きを待った。


「隆二はあからさまに奈々ばっかり愛おしそうに見つめてるし、臣は…そんな隆二の奈々への気持ちに遠慮してわたしにかまっているんだって。でも本当は心の中では奈々が好きなんだって…そう思ってたのずっと…」

「うん…」

「でも隆二…わたしが直人くんと付き合うの嫌だって…わたしのこと…お嫁さんにしたいって…そう言ったんだよ…」


困ったような、泣きそうなゆきみの真っ赤な顔。

その心は複雑で、先を急いだ隆二に対して戸惑いを隠せないんだって。

まさか隆二がそんなにもゆきみに対して想っていたなんてあたしだって気づかない。

岩ちゃんに言われた心変わりなのか、それともずっとゆきみのことを好きだったのか…あたしにも分らない。

でも今の隆二はゆきみに対して真っ直ぐで揺るぎない。

直人くんの想いがそれに勝てるとはとうてい思えない、残念だけど。


「直人くんのこと信じるって決めたんだよわたし…。それなのに隆二が傍にいるから…」


どうしたらいいか分からない…―――まるでそう続きそうなゆきみに、あたしは「うん」そう小さく頷いた。


「こんなんならお揃いのTシャツなんて買わなきゃよかった…」


ゆきみに言われて思いだした。

そういえば二人でお揃いの買ってたな。

あの時から隆二は何となくおかしかったけど、既にゆきみを大きく意識していたのかもしれない。

変わっていこうとしているあたし達四人の想い…

それを強く感じたなんて。


「直人くんはなんて?」

「いいって。誰かから逃げたとしてもいいって。それでも一番になる自信があるから信じてほしいって…」

「直人くんらしい…」


あたしの言葉にほんのり笑顔を浮かべるゆきみ。


「でもこれだけは言わせて…」

「ん?」

「ゆきみを幸せにするのは隆二か臣がいい…あたしも素直になりたい…」


あたしの言葉にゆきみが泣きそうな顔をした。




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