この世の現実




「てゆうかマジありえなくない?何で直人くんと小林が変わってんの?幸子が可哀想!直人くんと同じ班だってすごい喜んでたのに…。ゆきみのせいで…」


トイレの個室に入ったあたしに聞こえてきた声にドキっと反応した。

順番待ちの声が微かに聞こえてきて。

直人くんと直己くんが変わった事実が判明したけれど、今はそんなのどうでもよくって。

ゆきみのせいにしたのが許せない。

あたしはバンっとドアを叩くように出て行って順番待ちの女子の前で止まった。


「文句があるならあたしが聞くけど。ゆきみのこと悪く言うのやめてくれない?」


あたしの言葉に一瞬「え?」って顔をしたものの、すぐにジロっと睨み返される。

四人に対してあたしは一人で。

あきらかにこっちのがフリかもしれない。

でもゆきみの為だったらそんなの怖くも何ともなくって。


「そっちが悪いんでしょ!」


ドカっと肩を押されてトイレのドアに突き飛ばされた。

一気にみんなの注目を浴びる。

我関せずな生徒達は見ているものの誰一人として口なんて出してはこない。

それがこの世の中の現実だって思う。

自分にとって面倒だと思ったのなら簡単に見て見ぬフリをするんだ。

だけどそんなのあたしにはとうてい無理なことで。

自分の親友が、仲良くしている友達が誰かに悪く言われていたらあたしには黙って見ているだけなんて出来やしない。

それがきっとゆきみだったとしても、あたしと同じように言い返しているに違いないって。

他の誰に通じなくたっていい。

あたしとゆきみが分かってればそれでいいんだ。


「奈々大丈夫!?」


現れたのはゆきみだった。

あたしを突き飛ばした奴をすごい剣幕で睨みつけている。


「奈々に何すんのよっ!」


ゆきみの大声がトイレいっぱいに響く。

でも次の瞬間引率の先生に見つかってすぐに引き離された。

トイレ休憩の短い時間いっぱいしこたま怒られた。


「奈々ありがとう…」

「うううん。ゆきみだって同じことするでしょ?」

「それは絶対!」


すっごい先生に怒られたっていうのにゆきみとこうして一緒にいられることが嬉しくて。

素直な気持ちを伝えたくて…


「ゆきみは臣が好きなんじゃないの?」


でも―――気づいたらそんなことを口走っていた。

一瞬キョトンとした顔のゆきみ。

何となくいつもと反応が違うように見えて。


「あれ?隆二だった?」


あたしがそう聞くと、まさかの赤面して「ち、違う…」そう言うんだ。




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