当たり前の居場所
【side 奈々】
「おはよー奈々ちゃん。よろしくね!」
そう言って集合場所からバスに乗ったら岩ちゃんがあたしの隣に座りこんできた。
キョトンと岩ちゃんを見つめたあたしの視界に入りこんだ臣の姿。
スローモーションで臣が岩ちゃんを後ろから蹴っとばすのが見えた。
「いってぇ!」
思いっきり前のめりにつんのめって、なんならあたしの膝に頭から突っ込んできた。
「ギャッ!」
慌てて岩ちゃんを受け止めるけど…
「どけ」
一言臣がそう言って、岩ちゃんの首根っこを掴むと、ポイっと後ろに追いやった。
ムスっとした顔で「油断も隙もねぇな、岩ちゃん…」ボソっと呟いて、当たり前にあたしの隣に座ったんだ。
普通こういう移動は男子は男子、女子は女子で座るんだとも思うけど、あたしにとっては臣が隣にいてくれて有難い。
別に女友達がいないわけじゃないけど、やっぱり臣であり、隆二であり、ゆきみが隣にいることが普通なんだと思う。
隣で大あくびを繰り返す臣はその表情も眠そうで。
「寝てないの?」
「…普通」
そっけなく答える。
でもチラっと臣があたしを見て、それからゆっくりと体勢を後ろに移すと、コテっと肩に頭を乗せた。
「ついたら起こして」
そう言って大きな瞳をそっと閉じた。
規則正しく寝息を立てる臣を、同じバスに乗っている女子たちが溜息をつきながら見ている。
あたしと目が合うと少しだけハニかんで視線を逸らした。
出発まであと5分もあって。
窓際の席のあたしはボーっと外を見ていた。
ゆきみどのバスだろ…
そう思っていたからだろうか、隣のバスに乗り込むゆきみと隆二が見えた。
バスの奥まで行った二人は、ちょうどあたしと臣のいる場所の真横に座った。
チラっとゆきみの視線が飛んでくる。
「奈々!」
微かに聞こえるゆきみの声に手を振って微笑んだ。
すぐ後ろの隆二にも。
でも―――次の瞬間、ゆきみと隆二の後ろから顔を出した直人くん。
直人くんも同じバスだったんだ…どうしてかあたしの気持ちは落ちて。
「聞いたよ直人に。ゆきみちゃんと付き合うって…」
一つ前の席に座った岩ちゃんがこっちを振り向いてそう言った。
二人が付き合っているって噂が広まるのは早くて。
それだけ直人くんも人気者なんだって思えた。
岩ちゃんの言葉に視線をゆきみ達に戻す。
そこにはゆきみと同じ班の直己くんの姿がなくて、だからもしかしたら変わったのかもしれないって思った。
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