逃げ道
バタバタバタ…って走る音がして「ゆきみちゃんっ!」…直人くんが来るまで駅のホームにある椅子に座って待っていた。
混乱していた頭も少しだけ落ち着いたけれど、やっぱりわたしの心は穏やかにはなれなくて。
全力疾走してきてくれたって分かる直人くんは肩を大きく揺らして呼吸を荒くしている。
「ごめんね」
小さくそう言うと座っていた私の腕を引っ張ってギュっと直人くんの腕の中に閉じ込められた。
熱い身体を大きく揺らしながら、わたしを強く抱きしめる。
「いいからもう…分かったから」
そう言って優しくわたしの頭を撫でてくれる。
自分の気持ちが整理できないまま直人くんを呼んじゃったから、どうしたの?って聞かれた所で何も答えられないと思った。
そんなわたしの気持ちを分かってくれたんだろうか…
「この前言ったこと…忘れて」
「…この前?」
「うん…。奈々ちゃんに遠慮して俺を選ぶのは止めてほしい…って奴…」
奈々が臣を見ているって直人くんの口から知らされた日のことだった。
なんともいえない気持ちになったことを覚えている。
「直人くん?」
「俺それでも構わねぇ。ゆきみちゃんが何かから逃げたんだとしても、それでもゆきみちゃんのこと受け止める。つーか受け入れる…。今は一番じゃなくても俺が一番だって言わせてみせる…」
直人くんはそっと抱きしめている腕を緩めてわたしの肩に手を置いて真っ直ぐに視線を合わせた。
「でも…」
「俺がゆきみを好きなんだよ。傍で守ってやりたい…」
「ズルイんだよわたし…」
「自信あるから俺、ゆきみちゃんの一番になる。だから俺を信じて…―――俺と付き合って」
幸せになれるかもしれない…なんて、本気で思えたんだ。
出会った時からずっとわたしに一途でいてくれた直人くん。
他の子に告白されても「好きな子いるから」ってちゃんと断ってくれて。
最初は戸惑ったりもしたけど、わたしのことを本当に一番に見ててくれる直人くんとだったら…って思ってもいいんじゃないかって。
「直人くんわたし…自信ない…。でも…信じてみたい…」
わたしの言葉にいつもみたいな無邪気な笑顔じゃなくて、ホッとしたような安心したような大人っぽい表情で微笑む直人くんに、少し胸がドキっとする。
「すげぇ嬉しい…」
コツって直人くんのオデコがわたしのオデコに重なって…
「目閉じて…」
黙って目を閉じた直人くんから、二度目のキスが届いた…。
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