納得できない




隆二の後ろに行って隆二の腕を掴むとチラっと視線を向けて。


「臣に…」

「え?」


何かを言いかけて言葉を止めた。

合っていた視線が離れていく。

隆二…?

やっぱりおかしくて奈々に視線を向けると、ちょっと複雑そうな顔でわたしを見て微笑んだんだ。


水着を買うことなくそろそろ帰ろうって話になってわたしは臣の後ろに乗った。

隣で隆二と奈々は普通に楽しそうに話していて。

コツンって臣の背中に頭をぶつけると「あ?」臣が肩越しにわたしを見る。


「隆二…どうしちゃったのかな?」

「…――心配?」

「当たり前でしょ」

「けど今はもう普通に奈々と話してんじゃん!」

「そうだけど…」

「ゆきみ…」

「え?」


急に臣のお腹に回していたわたしの手に、臣の手が重なる。

醸し出す空気が少しだけ甘くなったことに気づいたけど、気づいてないフリ。

でも―――「隆二と付き合うの?」臣から出た言葉に吃驚して。

何でそんな話になるんだろうか。

だけどそれならその方がいいのかもしれない。

わたしと隆二が付き合えば、臣は奈々と付き合えるし。

ギュっと臣のお腹に回した手に力を込めた。


「隆二がわたしでいいなら…」

「…なんだそれ」

「え?」


怒ったような口調にわたしは顔を上げた。

正面を向いたままの臣。

でもわたしの手を離してはくれなくて。


「奈々が隆二を好きでもそれ言える?ゆきみの気持ちが本物なら奈々も俺も隆二も納得する。けどそんな隆二がいいならなんて、違うんじゃねぇの?」


こんな時だけ正論を述べる臣をズルイと思う。

散々わたしの気持ちに土足で入り込んで、それなのに…―――


「臣、止めて」

「はぁ?」

「降ろして」

「無理に決まってんだろ!」


大袈裟に臣がそう言うから、隆二も奈々も「なにごと?」って顔でこっちを見ている。


「ゆきみどうしたの?」


心配そうに奈々が見ていて。

奈々…わたしは奈々が一番幸せであってほしいの。

臣の手を無理やり剥がして勢いよくポーンっと臣の背中を押して自転車から飛び降りた。


「おい、ゆきみっ!!」


臣が慌てて自転車を止めたけど、点滅が終わって赤になった信号をダッシュで渡って駅の階段をかけ降りた。

後ろで物凄い臣達の叫び声が聞こえたけど無視して駅のホームに入る。

走ったせいで乱れた呼吸。

苦しくて胸を押さえる。

訳の分からない涙が溢れてきて…スマホのLINEを開くと一言送ったんだ。


―直人くん、会いたい―…。





- 54 -


prev / next