隆二の異変




【side ゆきみ】




「奈々ただいま!」


トイレから戻ってきた隆二がそう言ったものの、すぐに視線をこちらへ向けた。

同時に、試着室のカーテンから顔だけ出してジロっとこっちを睨む奈々。


「隆二走ってきたの?」


奈々の問いかけに、こっちを見ていた隆二が「え?」…ちょっと動揺したような様子で苦笑いを零す。

隆二らしからぬことで。


「隆二?どうかした?」


わたしが聞くとジッと臣を見ていたのか、また隆二が小さく首を振った。


「なんでもないよ。…奈々水着きた?」

「…うん。でもゆきみ以外は見せないよ」

「いいじゃん見せてよ」


隆二がカーテンを握って奈々に近づいた。


「なんだ隆二の奴、変じゃなかった?」


小声で臣がわたしの耳元でそう聞いて。


「うん、変だった…」


隆二以外のわたし達みんなが隆二の異変に気づいたけれど、その理由はさっぱり分からなくて。

だから誰も何も言わない。


「絶対嫌なんだけど…」


断固拒否する奈々に、わたしが隆二の手を引っ張って後ろに下げる。


「隆二もダメ。奈々の水着姿はわたしのものだよ〜」

「えええ!臣ぃ〜」


子供みたいにダダをこねる隆二に鼻で笑っている臣。

何だか余裕に見える臣はそれでも奈々に向って「焦らしプレイ?」なんて言っていて。

途端に真っ赤になる奈々はピシャっとカーテンの中に入っていく。


「臣のバカっ」


中から奈々の声がして。

すぐに臣がカーテンを掴んで「ごめんごめん。冗談だよ奈々。見せてよ俺にも…俺だけに…」わたしが言われたわけじゃないけれど、臣のその台詞は少しだけドキっとした。

チラっと臣を見上げるわたしの頭をポンってする臣。

臣の気持ちが全然見えない。


結局奈々はそのまま自分の服に着替えて出てきた。


「あーあ、臣のせいだ」

「俺じゃねぇよ」

「わたしだけは見れる予定だったのに!」


パシっと臣の腕を叩こうとしたらその手を掴まれた。

そのままグイっと引き寄せられて臣の腕がわたしを抱き寄せる。


「…臣、なに?」

「…別に」


そう言うも臣の腕はわたしを離す気はなくて。

だからか、それに気づいた隆二が「臣離せよ、ゆきみのこと!」見たことない顔で、聞いたことないような低い声で隆二が言ったんだ。


「やだ」


一瞬隆二に怯んだものの、臣の口から出た言葉に奈々まで凍りついたような表情になっていて。


「やだじゃない!離してよねっ!」


無理やり臣の腕の中から出てやった。




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