笑顔の下
パスタを食べ終えたあたし達はその後特設会場でやってるっていう水着を見に行くことにした。
「すごい人…」
思わずあたしの口から出た言葉にゆきみも苦笑い。
人混みが苦手なあたしとゆきみ。
毎朝自転車で学校に行っているのも電車やバスが苦手だから。
昔っから臣と隆二が送り迎えをしてくれているから助かっているけど、やっぱり少し息苦しい。
「奈々大丈夫?」
ゆきみが心配そうにあたしを見ていて、だからニコっと笑って「平気!」頷いたんだ。
「おい、しんどかったら言えよ!」
ポスって臣の手があたしの頭に触れてクシャっと前髪を崩していく。
「俺もいるから」
隆二がふんわり微笑んでくれて、ゆきみがキュっと手を握って進んでいく。
キャンプに水着は必要ないし、持ち物にも入っていないものの…
「川で遊ぶんだから必要だよね?」
ゆきみの言葉に臣が頷いていて。
「…これすっごいなぁ〜」
ゆきみが手にしているのは超大胆なビキニで。
臣と隆二も同じように目をまん丸くしてそれを見ている。
チラっとゆきみが悪戯っぽく口端を緩めていて。
「奈々これわたしにだけ着て見せてよ!」
それを持って何故か試着室へと押される。
「え、やだよ!無理だってこんなの!」
慌てて拒否るけどどんどんゆきみに押されて試着前に辿り着く。
店員さんが極上のスマイルで「ご試着ですね、どうぞ!」シャっとカーテンを開けられて…。
「…ゆきみにしか見せないから…」
ジロっと睨むと笑顔で手を振られた。
試着室の中は静かで、外の音も遮断気味。
でも聞こえた「あ、俺トイレ行ってくる。奈々、俺が戻るまで出てこないでよ!」わざと声を張った隆二が憎たらしいけど何もできなくて。
仕方なくこの大胆な絶対に自分じゃ手に取らないであろう水着にゆっくりと着替えていく。
「お前今日楽しい?」
―――不意に聞こえた臣の声。
くぐもっていてよくは聞こえないけれど、臣の澄んだ声はここには聞こえてきていて。
「え、楽しいよ。なんで?臣つまんないの?」
「………」
ゆきみの言葉の後が何も聞こえない。
臣、あたしと一緒でつまらなかったの?
笑顔の下は曇ってたの?
せっかく臣と話して楽しかったのに…―――「帰りは俺の後ろ乗れよなゆきみ」…こんな声だけ聞こえるの、ずるい。
あたしだけ楽しんでるみたいで切ない。
「奈々ただいま!」
聞こえた隆二の声に胸の奥がホッと熱くなった。
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