臣の本音




【side 奈々】



急激に距離を埋めているように見えるゆきみと隆二を見て不安なのか疑問なのか、よく分からない感情があたしの中で渦巻いている。

ゆきみを好きな臣はそんな二人を見て何も思わないんだろうか…。

だから臣の手を引っ張って二人からほんの少し距離を作ったあたしはそう聞いたんだ。


―――隆二とゆきみが付き合ってもいいの?…と。


あたしの言葉にキョトンとしたまま大きな目をこちらに向けて「…どうした?」臣が聞くけど。


「そしたらあたし、どうなる?」


臣はあたしが掴んでいる腕を取って少しだけその距離を埋めた。

隆二とゆきみは尚も買い物を続けていて…


「あの二人がうまくいっちゃってもいいの?臣は…いいの?」


あたしの言葉に視線を二人に向けたまま「…ああ」小さく呟いた。


「どうして?臣はゆきみが好きだって…言ったじゃない!」


わざわざあたしに言いつけるみたいに、隆二に安心しろって言うかのように、直人くんに宣戦布告したじゃない!

やりきれないあたしの頬に臣の指が触れた。


「どうした、奈々?」


ムニュって頬を軽くつねる臣に涙すら零れてしまいそうになる。


「あの二人が付き合ったら…ねぇ…」


言葉とは裏腹に臣の視線はあたしだけを見つめている。

ほんの少し首を傾げてあたしに近づく臣にドキドキする。

前髪をサラっと指ですくって優しく微笑んでいる臣に、胸がキュンっと鷲掴みにされた気分で。


「お前次第だよ、奈々…」


そんな言葉があたしに届いた―――。

一瞬臣の言ってる意味が分からなくて。

見上げたあたしに臣の視線は真剣そのもので。


「奈々はどうしたいの?」

「え…」

「隆二とゆきみが付き合ったら、奈々は俺と付き合う?それとも、隆二が好きだってゆきみに言う?」

「…臣?」

「奈々の本当の気持ちってどこにある?」


初めて臣の本音が見え隠れした気がする。

ゆきみ、ゆきみ…って言ってる臣の言葉さえも、臣自身に言いつけているのかもしれないって…。

そこにあるのは期待で。

でもだからってあたしには隆二とゆきみの気持ちを無視することなんてとうてい出来ない。

臣の幸せだって願いたい。


「ズルイ、あたしにだけ言わせる臣なんて…」

「そう、だな…ごめん」


ポンって臣の手があたしの頭に触れる。

そのまま臣はあたしの手を引いて二人の所へと連れて行く。

もうその話題に触れるな…って言われたように思えたんだ。





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