第三者の目線




「すぐ終わるから待ってろよゆきみ!」


直人くんを無視してわたしにそう言いつけると、臣はそそくさとみんなの輪に戻って真面目にストレッチを始めた。

不満気な顔の直人くん。

でもグラウンドになんて来たらこうなるって分かっていたんじゃないかな…。


「ゆきみちゃんは…俺と広臣どっちと帰りたい?」


ちょっとだけ意地悪な質問をされる。

直人くんのわたしに対する気持ちは分かるけれど、それ以外は何を考えているのかさっぱり分からなくて、だからこの質問の意図も見えない。


「俺、ゆきみちゃんは長期戦かな?って思ってるけど…でも…」


そこまでで一端言葉を止めると校舎の方を見て、再びわたしに視線を戻した。


「奈々ちゃんに遠慮してとか…それで俺を選ぶのだけは止めてほしい…」

「え…?」

「少なくとも俺、奈々ちゃんと同じクラスな訳で、奈々ちゃんと広臣のやり取りとか普通に見てるけど…分かるよ」


それは、奈々が臣を好きだって、言っているの?

無言で見つめるわたしにちょっとだけ切なそうに微笑む直人くん。

どうしてそんな顔するのかすら分からないけど…


「ゆきみちゃんを追いかける広臣のこと見てる奈々ちゃんの顔は、すごく綺麗で…切ないから…」

「やめてよ、直人くん…」


俯いて指をグッと握りしめる。


「分からせないよ、奈々のこと。わたしが一番分かってるの…」


少し感情的に言葉をぶつけると、直人くんが目を大きく広げて一歩後ろに下がった。

やっちゃった…ってそんな顔で眉毛を下げている。


「ごめん、俺…」


申し訳なさそうに頭を下げる。

でも…―――第三者の直人くんが冷静に見てそう思うってことは…


「奈々は臣が好きなんだ…」


その言葉は口に出せなかった。

臣がわたしの腕を掴んだから。

直人くんとの話に夢中になっていて、臣の存在を忘れていたことに気づいた。


「帰るぞ」


一言そう言ってわたしを自転車置き場に連れていく。

直人くんはやっぱりこうなることを分かっていたんじゃないかって。

こうして臣に連れて行かれるわたしを追いかけてこなかったから。


「何もされてねぇよな?」


確かめるようにわたしの頬に手を添える臣。

大きなその手は温かくて、スッと臣のその手に自分の手を重ねた―――。

一瞬目を見開く臣。

でも…ゆっくりとその綺麗な顔をわたしに寄せる。

ここで目閉じたらダメだよね…そう思うのに動けなくて、胸がキュンって小さく鳴いた。




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