アプローチ
「帰る時LINEしろよ」
散々臣に言われて、渋々「分かった」そう言ってダンス部に顔を出した。
直人くんとエリーは野球部も掛け持ちしているらしく、今日はダンス部がメインの日だった。
見かけないわたしを見て、他のクラスのみんながチラチラと視線を送ってくる。
臣や隆二と一緒にいるとそーいう視線を浴びることもしばしばあるから慣れっこで。
何がどうすごいのかは分からないけど、二人はずば抜けてセンスがいいように見えた。
「直人の彼女?」
ストンって隣に座ってそう聞かれた。
「え?」
「付き合ってんの?」
「うううん、付き合ってないよ」
「へぇ。珍しいから直人が女連れてくるなんて…」
この部内でもたぶんとびきり顔が整ってると思われる人が話しかけてきて。
汗をかいているのにめちゃくちゃ爽やかな香りを放っている。
「哲也先輩、あの…」
そんなわたし達に気づいた直人くんが慌ててこっちに来て。
「なんだよ色気づきやがって」
スッと立ち上がると「まぁ楽しんでって」そう言ってわたしの背中をポンっと叩いた。
哲也先輩がいた場所に座る直人くんは「何もされてない?」ちょっと焦って見える。
「うん、別に何も…」
「哲也先輩めちゃくちゃかっこいいでしょ。女子のほとんどは哲也先輩目当てだから、その…」
「わたしは直人くんを見てるよ」
不安そうだった顔がパーっと明るくなる。
そんなわたしの言葉に嬉しそうにハニカム直人くんだけど、何でだろう…わたしの心は浮ついているようで、この場所に自分がいることが不自然に思えているだなんて。
わたしの頭の中ではすでに、週末の買い物のことでいっぱいで。
そんなことをボーッと考えていたら、ダンス部の活動が終了を迎えた。
「楽しかった?」
直人くんがニコニコしながらそう聞くものの、「うんっ!」出した言葉と気持ちは裏腹で。
「着替えてくるから待ってて、送る!」
「直人くん…臣が…」
スマホを取り出すわたしの腕を掴んでギュッと強く握る。
「俺が送りたい」
「でも…」
「俺のこと、見て欲しい…」
ギュッと強く握る手から直人くんの想いが流れ込むよう。
こうやって面と向かって想いを堂々とわたしに言ってきた人は今までいなかった。
常に臣と隆二が一緒にいたせいか、告白を断った時点でその後のアプローチなんて許されなかったのかもしれない。
だから直人くんの想いが本物だってそれは分かるから小さく頷いたんだ。
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