宣戦布告
隆二の決断に臣も奈々もそれ以上何も言わなかった。
奈々をすごく大好きな隆二がわたしでいいって言ったそれが、わたしには嬉しくて。
できるのなら、臣と奈々ももっと仲良くあって欲しいだなんて。
「運命なんて感じてないよねぇ?」
若干不満気に奈々を覗き込む岩ちゃんに半笑いの奈々。
さっきの一言で岩ちゃんのチャライイメージがほんの少しなくなっているわたしは、少しだけほのぼのとした気持ちで二人のやり取りを見ていた。
「岩ちゃんよりかは運命だと思うけど」
「何言っちゃってんの?たかだかキャンプの班決めぐらいで運命感じられても困るよ!」
「だから、岩ちゃんと同じになるかは…」
「ストップ分かった!じゃあ実践で俺を選ぶように仕向けるから」
腕を組んで眉間にシワを寄せて考えてる岩ちゃんが可笑しい。
イケメンだけど、意外とストレートで。
案外奈々に遊ばれてる感じも合ってるのかも、なんて。
「実践って何だよ」
黙って聞いていたものの、どうにも我慢できなくなったのか、岩ちゃんを威嚇するみたいに近寄る臣。
奈々の細い腕を引いて自分の後ろに隠す臣に、隆二の瞳も細く微笑む。
「え?臣はゆきみちゃんでしょ?マジで好きなのゆきみちゃんだけっしょ?」
「そーいうとこだけはちゃんと聞いてんだな、お前。言っとくけど奈々のこともめちゃくちゃ大事に想ってんだよ。簡単に奪えると思うなよ?」
…―――――それがわたしには宣戦布告のように感じた。
それが臣の本音のように思えた。
今まで隆二の場所だったそこを、今度は入れ替わるように臣がいて。
臣が奈々を想う気持ちが伝わってきてやっぱりそれは嬉しい。
だから臣を見てニッコリ笑うと目が合った後フワリと微笑んだ。
2時間かけて全部の班決めが終わった。
講堂を出る時、後ろで臣と隆二が話している。
「隆二マジでいいの?班…」
「臣が変わりたいの?」
「いや…」
「俺もゆきみをめちゃくちゃ大事に想ってる」
「ああ、そうだな…」
何となく聞こえたその会話。
隣の奈々の耳にも入っていると思うわけで。
「ゆきみもいいの?」
「わたしは奈々と一緒になりたかったよ!」
そう言って奈々の腕に絡まると、嬉しそうに奈々も笑った。
もし、わたし達がみんなそれぞれ自分の気持ちに正直になったのなら、本当の幸せがそこにあるんじゃないかって…
そんな錯覚すらおこしたい程に――。
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