卵焼き
そんな気持ちのまま迎えたお昼休み。
気まずさ120%の瞳を抱えて、それでも臣と岩ちゃんと一緒にうちのクラスに来るゆきみ。
そこに混ざる直人くんとエリー。
「直人くん今日もパン?」
購買でエリーと一緒にパンを5個買って食べている直人くんに向って不満気に聞くゆきみ。
「うん…うち男兄弟だから親はわりと放任主義っつーか」
そう答えた直人くんにゆきみが自分のお弁当を見てそれから顔を上げた。
でも…―――「これはお前の!あげる必要ねぇ」そう言うのは当たり前に臣で。
そんな臣をあえてなのか無視して卵焼きをフォークで刺したゆきみは、それを直人くんの口に運んだ。
「あげる」
卵焼き前にして真っ赤になってる直人くん。
「いやでも…すげぇ嬉しいけど…」
「いいから。わたしがあげたいの!これはわたしの気持ち…」
さっきの告白を聞いていたからなのか、ゆきみと直人くんの距離が近いのがやっぱりちょっと気に入らなくて。
加えて臣が一切あたしを見ないことも気に入らない。
「あれ?何か機嫌悪い?珍しく…」
フワって目の前に岩ちゃんの顔が降りてきてあたしをジッと覗き込む。
この目は何でか嘘がつけなくて。
「そんなことないよ」
そう言っても、岩ちゃんの言葉のせいでこの時やっと…臣があたしを見た。
大きな瞳でジッとあたしを見つめる臣に、心臓がキュンっと高鳴る。
別に今までだって見つめ合ったことだって何度もあるし、何なら臣と二人っきりになったことだってたくさんある。
それなのにどうしてか今さらあたしの心臓はバクついていて…
「お前熱あんの?」
そう言って臣の大きい手があたしの頬に触れた。
「ないって」
慌ててそう言って臣の手を払うけど、それが気に入らなかったのか真っ直ぐにあたしを見つめる臣が「奈々…」小さくあたしを呼んだ。
「なによ」
「それくれ…」
「…へ?」
「奈々の卵、好きなの」
「…うん」
さっきのゆきみみたいにフォークで卵焼きを刺して臣の口元に運ぶ。
そのままあたしの手をギュっと上から掴んで卵焼きをパクっと食べる臣。
なんてことないその仕草に目が釘付けで離せなかった。
「げ、俺なんか…自爆した系?」
岩ちゃんの言葉に自嘲的な笑いを零すだけで。
「奈々の卵焼きはめちゃくちゃ美味いもんなぁ」
隆二の呟きにゆきみも微笑んだんだ。
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