狂い始めた歯車




【side 奈々】



ゆきみの後姿を愕然と目で追っているものの追いかけられずにいる隆二。

隆二が昨日ゆきみの所に行かなかったその理由はあたしにあるって。


「隆二…」
「直人さ…」


あたしが隆二を呼んだ声と臣が直人くんを呼ぶ声が重なる。

チラっとあたしを見た臣だけどすぐに視線を直人くんに戻して鞄を持ち直す。


「なに?」

「悪りぃけど俺、ゆきみのことマジで好きだから…お前なんかに絶対ぇ渡さねぇよ」


ズキンっと胸が痛む。

分かっていたことだけど、いざ臣の口からその言葉を聞くのは痛くて…泣かないようにぐっと喉の奥を噛みしめた。

直人くんはそれでも一歩前に出て臣よりも全然小さいのにジロっと臣を見上げた。


「俺も絶対ぇひかない」

「ふうん。負けねぇけど」


臣がニヤって得意気に笑ったんだ。

それから視線を隆二に移して…


「昨日何してたんだよ、お前…」


ゆきみのお見舞いに行かなかった隆二を責めた臣の言葉が、隆二にもあたしにも刺さる。


「ちょっと考え事してて…」

「あいつの見舞いよりも大事な考え事なんてあるのか?」

「…ごめん」


俯く隆二は唇を噛みしめていて。

隆二が1番辛いって臣だって分かってるはずなのに、そんな言い方…。


「臣、隆二は」

「奈々を頼むぞ、隆二…」


どうしてか、あたしの言葉を遮るようにそう言う臣はあたしを一切見ないで向きを変えた。


「臣?」


後から呼んでも足を止めずに歩きだして。

あたしがその後を追いかけようと一歩踏み出した時、ギュっと後ろから隆二に腕を掴まれた。


「奈々…ごめん。行かないで…」

「隆二…」


今にもあたしを抱きしめちゃいそうな顔で見つめる隆二を置いて臣を追うなんてあたしには出来なくて。

臣がそうやってあたしを突き放すなら、せめてあたしの目を見て言えばいいのに。

言葉だけであたしを隆二に任せた臣を酷いと思った。


「ゆきみには今日必ず謝る」

「…うん」

「臣は…本気なのかな、ゆきみのこと…」


臣のいなくなった廊下を見つめる隆二の目は真っ直ぐで。

その想いごとあたしにぶつけてくれる。

きっと隆二とならいつだって幸せでいられる。

そう分かっているのに…―――心はこんなにも臣を想ってしまう。


「そうだね…」


いい加減諦めたい気持ちばかりがあたしの心を支配しているだなんて。





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