固い決心




「おはよう!」


そう言ってその腕を取って自分の腕に絡めてみた。

思いっきり吃驚した顔でわたしを見つめるのは直人くん。


「おは、おはようゆきみちゃん…。あの一昨日はごめんな。それと昨日はありがとう」


律儀にそう言う直人くん。

わたしの後ろで臣の舌うちが響いた。


「直人くんってダンス部だよね?」

「え?うん…」

「わたし今日帰り見に行こうかな」

「えっ!?マジでっ!?」

「うん!帰り行くから待っててよ」

「うん、待ってる待ってる!」


直人くんから離れたわたしを引っ張るのは当たり前に臣で。

ド至近距離に顔を寄せて「サッカー部終わりまで待ってろよゆきみ」そう言うんだ。

わたし達のやり取りを見て勿論ながら不満顔いっぱいの隆二。

なんて言ったらいいか分からない…そんな表情の奈々。

思いっきり怒っている臣。


「今日も直人くんと帰りたい…」


だからそう言うわたしに「ゆきみ何言ってんの?」隆二の腕すら伸びてきた。

わたしを見つめる隆二はいつも優しくて。

でも…―――「離してよ隆二」その優しい手を自分から突き放してみた。

驚いたのは臣も奈々も隆二も一緒で。


「離さないよ」


そう言う隆二はわたしの腕を強く掴む。


「隆二昨日わたし待ってたのに…。嘘つく隆二なんて嫌い…」

「ゆきみ…」


奈々が隆二を庇うみたいにわたしを呼んだけど…。

わたしの決心は固い。

隆二は目を泳がせて「ごめん俺…」小さく呟いた。


「言い訳は聞きたくない。わたし直人くんと帰る。いいよね?」


隆二の手を離して直人くんを見つめると「うん、今日はちゃんと送る…」そう言ってくれて。

そのままクルリと三人に背を向けて、この教室を出て行ったんだ。

ついてくると思った臣はついてこなくて。

だから一人で自分のクラスの扉を開けたら、級長の直己くんが笑顔で「おはよう」って迎えてくれた。


「おはよう直己くん。昨日はありがとう…」


わたしの言葉に細い目を更に細めて笑う直己くん。


「体調はもういいの?」

「うん。ありがとういつも」

「女の子に頼られて嫌な男はいないよ。俺はゆきみちゃんの味方だから」

「…頼もしいなぁ、直己くん…。直己くんとお付き合いしたら女の子は絶対幸せだろうね…」


素直にそう言ったら珍しく顔を紅くして苦笑いをする。

そんな直己くんがちょっと可愛くて、その大きな腕に絡まってみた。


「照れてる!」


わたしが笑ってそう言うと、「じゃあ試す?」そう言ったんだ。




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