恋の嵐
奈々に言われて言葉が止まる。
ゴクリと唾を飲み込むと喉がちょっと痛くて顔を歪めた。
「直人くんとキスして…嬉しかった?もっとしたいって思った?」
奈々の言葉に視線を逸らした。
目見て言ったらわたしの気持ちなんて簡単にバレてしまうわけで。
目なんて見なくても、今ここに一緒にいるだけでも、きっとわたしはわたしの気持ちを奈々に隠すことなんて出来ない気がする。
俯くわたしに奈々の手がポンッて背中に添えられた。
「ごめん病みあがりなのに。熱は?具合はどう?」
「…うん、大丈夫」
「明日は行けそう?」
「…うん、行く」
「分かった。また朝迎えに来るから…」
そう言ってベッドから立ち上がる奈々。
部屋を出て行こうとする奈々の後姿に思わず「待って!」叫んでいた。
「うん?」
「奈々は大丈夫?ガンちゃんとのキス…」
わたしの言葉に目を大きく見開いた奈々。
「臣に…?」
「うん。隆二キレちゃったって…」
「…うん。あたしなんかの為に…ね」
ふわりと微笑んだ奈々の笑顔は何だかとってもはかなくて、今にも消えちゃいそうで。
「奈々…」
「でもすごく嬉しかった…隆二の気持ちが…」
「え?」
「うん…隆二のことやっぱりすごく好き…」
そう言ってる奈々を見て、さっき奈々がわたしに言った言葉の意味を理解した。
「隆二が好き」…そう言ってる奈々は泣きそうな顔で。
臣への気持ちを隠して言っているって分かっているのにどうしてもそれが言い出せなくて。
臣が幸せになるなら…って思っていたはずなのに、いざ奈々と隆二がうまくいくかもしれない現実を突きつけられたら否定なんてできやしない。
わたしだって、隆二に「付き合おう」と言われたらきっと断らない。
臣を好きな気持ちと同じぐらい隆二のことも好きなんだから。
でもそれが経験不足のわたし達には、そのほんの少しの差が分からなくて。
臣への気持ちと隆二への気持ちが同じなんだって錯覚すら起こしてしまうんだ。
だからわたし達は、この頭上で円を巻いている大きな恋の嵐に気づくことなく、その中へと入り込むしかなった――――
「また明日ね」
笑って手を振る奈々がいなくなっても、結局朝までわたしの部屋に隆二が来ることはなかった。
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