泣きそう




「奈々…雷、大丈夫だった?わたし今日休んじゃんって…ごめん」


わたしの部屋に入ってきた奈々にそう告げた。

奈々は小さく首を横に振って「心配ありがと、大丈夫だったよ」ニコって微笑んだんだ。

その笑顔が優しくて、だから聞いてみたくなった。

二人でベッドに座ったわたしと奈々。


「奈々あのね、さっき…」


わたしの言葉に微かに奈々の瞳が揺れる。

黙ったままジッとわたしを見ていた奈々は、数秒ののちそっと目を逸らした。


「臣はゆきみが大好きなんだね…」


小さな唇を動かしてそう言う奈々。

でもその唇はわたしにだけ分かるくらいに小さく震えていて。

だからグっと胸に手を宛てて深呼吸をした。


「わたし…直人くんとキスしたの…」

「…え?」

「昨日、映画の帰りにサーティーワン寄って、そこで直人くんとキスしたの…」


奈々はちょっと動揺していて。

何で?って顔。


「奈々わたしが直人くん気になってること気づいてたよね?」


わたしの言葉に複雑な表情を浮かべている奈々。

困ったように目を逸らして「それは…」そう言う。

臣や隆二には誤魔化せても奈々には誤魔化せないんじゃないかって。


「最初は岩ちゃんのことちょっといいな…ってこれでも思ってみたんだよ?」


ニコってわたしが笑いながら言うと、奈々はほんの少し視線をずらす。


「…うん。何となく…ゆきみの反応見て思った」

「だよね」


でも岩ちゃんが選んだのは奈々で。

わたしはあっさり失恋を余儀なくされる。

といえど、恋していた…といえるほど岩ちゃんを好きだったか?と言われたら答えはNOで。

岩ちゃんが奈々を選んだことは当たり前で。


「岩ちゃんが誰を想おうと、わたしは奈々の味方だから」

「…ゆきみ」

「諦めるまでもいかなかったから、岩ちゃんは。でもそこに入ってきたのが直人くん。助けて貰ってちょっとキュンってしたのは事実で。だから知りたいって思ったの。直人くんはね、臣や隆二と同じ空気があるの…それがわたし心地いいの…」

「でもじゃあどうしてそんな悲しそうな顔なの?」


奈々に言われて、ドキンとする。

臣にも言われたその言葉。


「奈々…わたしどんな顔?自分じゃ分からないよ…」

「直人くんが気になっててキスしたのに、ゆきみ…泣きそう…」


そう言ってわたしの頬をそっと触る奈々。

その手が温かくて、それとも奈々に言われたからなのか…泣きそうになった。




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