愛の嘘




雨は止むことなく降り続いている。

空に突き刺さるような大きな稲妻はほんの一瞬だけ部屋を明るくさせて。

見つめ合うわたしと臣を照らす。

わたしを見下ろす臣の瞳は真剣で。


「…嫌なんだよ、ゆきみのそんな顔…。見てらんねぇ」


泣きそうな顔でそう言う臣。

壁にわたしを追い込んで抱きしめる臣はやっぱり冷たくて。


「どんな顔してるの、わたし…」


そんなに苦しそうな顔に見えるの?

臣も隆二も奈々も、優しすぎる。

みんながみんな、誰かの為に自分の気持ちを犠牲にしてまでこの愛を守りたいと思うのはいけないこと…?

わたしを見つめる臣の瞳は、やっぱり奈々を想っているように見える。

だからわたしはその想いを守りたい…―――――臣のことが好きだから。


「ゆきみ…」

「したよ、キス。直人くんと…」

「え?」

「わたしからしてって言ったの。初めてのキスはやっぱり好きな人とがいいって…臣だってそうでしょ?」

「………」


信じられない…例えるのならそんな顔。

目が泳いでいて、呼吸も乱れている臣はわたしの腕を強く握っていて。


「直人くんのこともっと知りたいんだ」

「嘘つくなよ」


ボソっと臣が言う。

強い視線でわたしを刺すように見つめる臣。

臣だって隆二の為に身を引こうとしているくせに、自分だけかっこよくなろうなんてズルイよね。


「本当だよ、さっきまで直人くんが下にいたの。だからベランダに出てた」

「俺よりも直人を選ぶっての?」

「…そう、だよ…」

「隆二よりも直人を選ぶのかよ?」


隆二…―――「もう帰って…」これ以上一緒にいたら泣いちゃいそうで。

俯いたまま臣の胸を両手で押した。


「ゆきみが嘘ついてることぐらい分かってんだよ。生まれてからずっと一緒にいんだよ俺等。ゆきみが誰を想ってそうしてんのかも…分かってるから。直人と付き合うなんて絶対ぇさせねぇ!」


そう言って臣はわたしから離れるとリビングを通って玄関の方へと消えていった。

これがあっているのか間違っているのかも分からなくて。

でもこうすることしか浮かばない。

奈々ならどうした?

奈々だったら違う応えを出していた?

奈々…―――逢いたい。

濡れたパジャマを脱いで新しいのに着替えたわたしがホットミルクを入れて部屋に戻った時、「ゆきみ…」部屋のドアから聞こえた声に振り返ったら逢いたくてたまらかった奈々がいた。




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