恋する可能性
「奈々…」
お昼休みが終わる寸前。
どうしてか岩ちゃんとゆきみを二人で教室に返した臣は、あたしの席まで戻ってきた。
「臣?どうしたの?」
あたしの言葉にほんの少し大きな瞳を揺らして見ていて。
直人くんがまだトイレから戻ってきていなかったのが幸いだったのか、隆二と反対側の直人くんの椅子に腰を下ろしたんだ。
「なんで行ってこいって行ったの?」
それはさっきのゆきみのことで。
臣は気づいていないんだろうか…――――
「え、ダメだった?」
「ダメっていうか…」
困ったように隆二を見る臣は隆二に助けを求めている目で。
「奈々が言わなきゃ二人で映画なんて行かせてないと思うよ、俺ら…」
隆二の言葉にあたしは直人くんの机に視線を向けた。
直人くんがゆきみに告白したあの日から…ゆきみの直人くんを見る目が少し変わったことにあたしは気づいていた。
最初はもしかしたら岩ちゃんなのかな?って思ったりもしたけど、もしかしたら岩ちゃんなのかもしれないけど…
「ゆきみだって恋ぐらいするよ…」
あたしの言葉に納得いかないって顔の二人。
あたし達の関係や絆が変わることはこの先もないと思う。
でも…―――ゆきみでありあたしが、臣や隆二以外と恋に落ちる可能性なんてものはきっといっぱいあって…。
いち早くゆきみの気持ちが動いたことにあたしは気づいていたいのかもしれない。
「奈々もしてんの?」
ギュってあたしの手を強く握ってそう聞く臣。
俯いていた顔を上げて真っ直ぐにあたしを見つめる臣の瞳はいつだって熱い。
あたしはこの目に弱い――――
「臣…あたしは別に…」
「奈々…」
臣の反対の手があたしの髪に触れてほんの少しあたし達の距離が縮まった。
ドキンと胸が高鳴るのは臣が奇麗だからなのか、臣が近いからなのか、それとも目の前であたしに触れているのが臣だからなのかは、分からない。
どれも違うかもしれないし、どれも当てはまっているのかもしれないし。
「…好きだよ奈々…」
あたしに向けられた愛の言葉。
そこにどんな意味が含まれているのかすら分からない。
「あたしも好きだよ、臣」
嬉しそうに目を細めて笑う臣に、やっぱり胸がドキンとしてしまうんだ。
「時間だよ、臣」
寂しげな隆二の声に臣がゆっくりとあたしから離れていく。
「隆二、奈々を頼むな」
そう言って、臣はあたし達のクラスからいなくなった。
隆二の何か言いたげな瞳だけを残して―――
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