▼ ダージリン王子1
子供の頃読んだ漫画に書いてあったんだ。
満月の夜に、夜中の12時ピッタリに真っ白いカップに紅茶を淹れてそこに満月を写して銀色のスプーンで紅茶をすくうと、そこから紅茶の王子様が出てきて願いを叶えてくれるって…。
ふと思い出した、そんなことを。
当時は親友と二人でお泊りの時にやろう!って話しててすっかり忘れてしまっていたけど。
明日はハロウイン。
日本じゃそれほど大きなイベントではないものの、ここ最近仮装だったりが増えてきていて主流になりつつあった。
これといって代わり映えのない日常に、もしもそんなことが起きたならどうなんだろうか…?
できればめちゃくちゃイケメンな王子様が出てきてくれたらいいな〜なんて思いながらも、漫画の世界だからそんなことはないって分かってもいる。
だけど明日はハロウインだからもしかしたら奇跡が起こるかもしれない。
だって今夜は満月。
やるしかないって…
そう意気込んで偶然にも先週買い揃えた紅茶セットを取り出して12時ジャストに紅茶に写った満月を銀のスプーンですくってみた。
部屋の時計がカチカチ音を立ている。
これといって何も変化はない。
「ダージリン王子様…どこぉ?」
まぁ、出てくるわけないよね。
そんな魔法みたいな物語は所詮作り物だけだって。
最初から期待していなかったものの、やっぱりかって残念な気持ちになる。
仕方なく紅茶に牛乳を足そうとした時だった。
「ストレートで飲めよ、全く」
…ん?
え、おばけ?
やだ、超怖いっ!!
キョロキョロ辺りを見回しても誰もいない。
いるわけないよね。
「おい、こっちだ、ここだ!」
聞こえた声は紅茶のカップら辺。
「まさかね…」
「俺を呼んだのはお前か?」
「えっ?」
ギョロっと目をカップに向けると、煙草の箱と同じぐらいの大きさの小人がそこにいて…
「え、本物?ダージリン王子?」
「そうだ!俺を呼んだのはお前か?」
「うん…え、敬浩?」
どっからどう見てもEXILEのTAKAHIROにしか見えないこの子。
モバイルの中から飛び出してきたような敬浩がそこにいる。
「馬鹿お前!この格好、どう見ても王子だろ!」
「え、じゃあ本物のダージリン王子?」
私の言葉に胸に手を当てて片足を一歩下げる。
ペコっと一例して「いかにも、わたしがダージリン王子のTAKAHIROだ」そう言ったんだ。
「やっぱ敬浩じゃん!」
「いやお前、俺結構この格好恥ずかしいわけよ。一生懸命やってんだからそこノッてくんねぇと困るんだよね…」
「口悪いね、たかぼー」
「…聞いてねぇのかよ」
「可愛いっ!抱っこしてもいい?」
スッと私が手を出すと、そこにチョコンって足を乗せた。
そのまま手を自分の方に寄せると、目の前で小さい敬浩がこっちを見ている。
「EXILEのTAKAHIROは魔女だったの?」
「まぁな。つーかメンバーみんな紅茶王子に扮してる。ダージリンが俺!」
「うっそ、メンバーみんな?すっごい!!ATSUSHIも?」
「ATSUSHIさんは色々忙しいから滅多にでない紅茶だけど…」
「ブッ!でも呼ばれたらATSUSHIもいくんだ?」
「まぁ規則だから…」
「嘘みたい!!嬉しいなぁ、絶対出てこないって思ってたから…」
チビ敬浩を手のひらに乗せたまま私はバタバタ足を動かす。
「おまっ、揺れるって!落ちたらどーすんだ?」
「あは、ごめぇん。てっちゃんも紅茶なの?てっちゃんのイメージ珈琲しかないけど…」
「哲也くんは兼任。紅茶も嫌々やってる!」
「あはははは!!何の紅茶?」
「教えないっ!」
プイって顔を背けた。