▼ パラダイス 1
疲れた。
しんどい。
辞めたい…
一カ月ぐらい休みたい…
なんて言っていたらキリがないくらい。
別に仕事が不満なわけでもない。
だけど何となくこの変わらない日常に嫌気がさしていた。
そうは思っていても結局毎日同じ日常を過ごすことしかできないのも自分で。
それが分かっているから余計に空しい。
もうだいぶ死語化している「ハナキン」だけが唯一の楽しみになっていた。
「はぁ…」
同じ時間に駅の改札を出た。
あー…雨とかすっげぇ降ってる。
ガサガサと鞄の中を漁って思い出した…。
あああああ!!
会社のロッカーの中に入れっぱじゃんっ!!
めっちゃバケツ引っくり返したみたいに降ってるのにやだよーこんなの…。
ザーザーに地面を濡らす大粒を見て、私の心まで大粒の涙が零れそうになった。
単純に弱っているんだと思う。
疲れていて。
色んなことに疲れていて、リフレッシュしたくて…
それなのに何この仕打ち。
酷いよ。
この世で私が一番悲劇のヒロインだ…なんて思わずにはいられない。
駅前のコンビニを見ると、傘が売り切れシールが貼られていて。
はぁい!?
あり得ない…。
何でこんな降ってんのに売り切れ!?
在庫出せよ、おいおい!
そう思っているだけで実際はしょぼんと肩を落として出ていくだけで。
もうやだ…。
本気で泣きだしそうで…
見上げた空は真っ黒で何も見えない。
どうしよう…本当にこのまま帰れない…
心がポキンっと折れちゃいそうになった瞬間だった―――
「ユヅキ!」
え…?
振り返るとこっちに向ってくるナオトの姿。
「え、何で?ストーカー?」
「ずっとつけてたんだよねユヅキのこと…!って、おおおおい!何言わすんだよ!待ってたに決まってんだろ…全く!」
そう言うなり、どうしてかナオトの腕は私の手首を掴んで公衆の面前だっていうのにそんなの気にもしてないって顔で私を軽く抱き寄せた。
張りつめていた糸がプチンって切れた気がした。
温かいナオトの体温に抱かれて身体の中にやっと酸素がおくりこまれたような気分で。
何すんの、とか。
恥ずかしいよ、とか。
そんな言葉も吹っ飛んで「ナオト…」小さく彼の名前を呼んだら「ごめん遅くなって」そんな温かい言葉が届いたんだ。